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『 ご飯、作ろうかな 』
「 え、マジ?いいの? 」
『 いいよ。慣れてるもん 』
このままだと余計なことも考えてしまう気がして、意識を背ける名目でキッチンに立つ。お米がちゃんとあったから、とりあえず炊いた。
冷蔵庫から適当に材料を取り、切ったり炒めたりを繰り返す。味つけは、特になにも変えない。
「 これ運んでいい? 」
『 うん、ありがと。お願い 』
二人で合掌して食べ始める。目の前で「美味しい」と言いながら頬張る乾。それに微笑みながらゆっくり噛んで飲み込む。
思えば、誰かと摂る食事は久々だった。
だけど、なぜかいつもより味気なくて。なんとなく原因は、分かるような気もするんだけれど。
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「 伊沢さんっていつもそうなの? 」
並んで食器を片づけていた時、ふと乾がそんなことを呟く。意味がよく分からなくて、私は首を傾げた。
「 好きな女性を床に正座させるのかって聞いてんの。作ってもらったご飯を食べなかったりさ 」
『 違うよ。私が勝手にしてるだけ。なんか隣に座るの、痴がましいように感じちゃうし。というか、なんでご飯の話、 』
「 見てれば分かるよ。何年いると思ってんの 」
そう言って笑顔を見せる彼は、高校生時代から良い意味でなにも変わっていない。良い意味で。
「 Aを苦しめる奴は誰だろうと絶対に許さない。たとえそれが、伊沢さんだったとしても 」
…前言撤回、
こんなこと、あの頃の乾には言えないと思う。
『 うん、ありがとう 』
「 いつでも来なよ。俺はAの味方だから 」
横を見上げると、髪をわしゃわしゃ崩される。嫉妬の感情は乾のおかげでもうなくなっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれからトランプをしたり麻雀を教えてもらったりしながら遊んでいると、かなり時間が経過していて、太陽は西へ傾いている。
『 …乾、 』
静かに呼ぶと、乾は無言で立ち上がって部屋を出ていった。どこに行ったのか、戻ってきた彼の手には、私の荷物が握られている。
「 帰りなよ、待ってると思うから 」
『 うん 』
「 がんばってね 」
また笑う彼に何度もお礼を言って家から出た。早く家に着いてほしくて、思わず小走りになる。
最後に言われた「がんばってね」という言葉の意味を考えながら、家のインターホンを押した。
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to be continued.
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音々(プロフ) - 神威-αさん» 全然大丈夫です!ありがとうございます! (2021年3月8日 23時) (レス) id: 713cea38c0 (このIDを非表示/違反報告)
神威-α - 音々さん» 分かりました。僕が書こうと思っていた話に被らないようにしたいので短くなるかもしれません。あと、『お疲れ様』の石森ちゃん視点の話も書こうと考えているので遅くなると思います。それでも大丈夫ですか? (2021年3月8日 22時) (レス) id: 60ae3ef212 (このIDを非表示/違反報告)
音々(プロフ) - 神威-αさん» 私自身、生理前とかって少し注意された(怒られた)だけで泣きたくなったりするので誰かに怒られて悲しくなるみたいなのがいいです! (2021年3月8日 16時) (レス) id: 713cea38c0 (このIDを非表示/違反報告)
神威-α - 音々さん» ありがとうございます!そんな風に言って頂けるとすごく嬉しいです。リクエストもありがとうございます。図々しいだなんてとんでもありません!ぜひ書かせてもらいます。ところで``色々´´とありましたが、なにか具体的にあったりしますか? (2021年3月8日 16時) (レス) id: 60ae3ef212 (このIDを非表示/違反報告)
音々(プロフ) - 更新お疲れ様です!すごく涙が出て悲しくなったり、思わずニコニコしちゃうような話もあったりして、毎日楽しく読ませていただいています。図々しいですがリクエストで、色々あって不安な夢主ちゃんを慰めるというお話が見てみたいです!これからも応援しています! (2021年3月8日 0時) (レス) id: 713cea38c0 (このIDを非表示/違反報告)
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