闇に手を伸ばす【HS】 (ページ2)

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“ごめん、用事入った”
携帯の待ち受けが光って、そのメッセージが目に入った。普段は着ない背中の開いたワンピースに身を包んで、そわそわと落ち着かない気持ちでレストランにいた私は一気に気分が下がるのを感じた。

メッセージを送ってきたのは彼氏。付き合って今日で3年目。一緒にお祝いをしよう、と誘ってきたのはあっちなのに、急なドタキャンにため息が溢れる。いつまで経っても連れが現れない私を見兼ねたウェイトレスの視線が痛くて、食事を待たずにレストランを出ることにした。お代は結構です、と優しい対応のお陰でお金が浮いた。やりきれない気持ちで外に出る。

最近、会うことが少なくなった。連絡がつかないと思ったら急に家に来て求められる。彼女なのに都合の良い女みたいに思えて、自信がなくなってきた頃。だから誘ってくれてすごく嬉しかった。久しぶりに美容院にも行ったしエステにも行った。綺麗だねって言って欲しくて。

だけど。目の前に彼に似た人がいて、見れば見るほど彼だという確信が得られて、声をかけようと思った。名前を呼ぼうと思って、それを遮るように彼の隣に駆け寄った女の人が現れて、腕に抱きついた。＿＿、と名前を甘ったるい猫撫で声で呼んで、それに応えるように彼も私の知らないその人の名前を呼んだ。その視線が、最近私には向けられていない優しいもので。それを見て、すとんと腑に落ちた。

飲もう、と思って、滅多に来ないBARに入った。ご注文は、と聞かれて、強いのを一つ、と投げやりに言った。記憶がなくなる前に、と思って携帯を取り出す。“別れよう、さよなら”と簡潔な文章を送って、それからブロックした。浮気された、と友達が言っているのを何回か聞いたことがあったけど、まさか自分がされるとは思ってもいなかった。浮気する奴の気が知れないよ、という彼の言葉を馬鹿みたいに信じていたから。