嘘から恋は始まらない

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「…あ、Aさん！」

「環奈ちゃん。どしたの、そんなに慌てて」

「Aさんの姿見えて急いで走ってきました」


何だこの可愛い子は。今すぐ家に連れて帰りたくなる。…あ、この子彼氏持ちだった。


「Aさんに聞きたいことがあって」

「何？」

「私さっき吉沢先輩に忘年会参加するか聞いたんですけど、そしたら先輩がAさんは来るの？って逆に聞いてきて。何かありました？」


何も知らない彼女の口から出てきた名前と内容に頭が追いついていかなかった。

吉沢が、私が来るかを聞いてきた？

私が参加するかしないかが彼の参加の是非に影響するのだろうか。私がもし参加するなら彼はしないのだろうか。

確かに一年前から彼が飲み会に参加する回数はめっきり減ってしまった。私か、将暉か、他の誰かかは知らないけど誰かしらに遠慮してるのは薄々感づいてた。

だけどそんなに直接的に聞くなんて。しかも環奈ちゃんに。私と彼女が仲良いことは知ってるはずだった。


「…吉沢、何て…？参加するって言ってた…？」

「はい。今回は参加するって。吉沢先輩めったに飲み会とか参加しないから意外ですよね。Aさんが参加するからですかね？今回来るのって」

「そんなこと、無いと思うよ、」

「またまたー。2人ってお似合いかもしれませんよ？」

「それ、私と将暉のときも言ってたじゃん」

「イケメンと美女はどんな組み合わせでもお似合いです」


でも、と彼女が少し声を落として言う。


「Aさんと吉沢先輩って前はもっと仲良かったんじゃないですか？だって菅田先輩と合わせて3人同期ですよね？」

「…うん、」

「噂になってましたもん。3人の結びつきは強いって」


環奈ちゃんは入社して一年目はこの部署にはいなかった。それこそ彼氏の新田真剣佑と同じ部署で一年間働いていた。だから彼女は私と吉沢が話さなくなってからの姿しか知らない。

噂になってた、か。


「話したくなかったら無理に言わなくて大丈夫です。いつか誰かに話したくなったらいつでも私に言ってください」

「…ありがとう」


彼女なりの素敵すぎる気遣いに救われた。何回ありがとうと言っても足りないと思った。彼女の姿を見たら涙が出そうで私は無理に微笑んだ。

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