彼岸花と君の涙。

親殺し、とは。 ページ23

｢親を殺すのを、手伝ってくださいませんか｣


部屋を出ようとしている中原さんの後ろ姿にこう言い放ったら、中原さんは心底驚いた顔をして振り返った。
私の顔を見て、それがお巫山戯でないことを悟った中原さんは、黙ってソファに座り、向かい側に座るように催促した。

私は静かに言われるがまま座った。

｢で、なんで手前が行成親を殺すなんて言い出したんだよ。言っておくが、そう簡単に人は殺せるもんじゃねえ。生半可な覚悟で親なんて殺してどれだけ後から泣いたって帰ってこねえんだぞ？それを分かって手前は言ってやがるのか？｣

顔を逸らしたくなるのを必死に我慢して、分かっている心算です。と答える。

｢元々、親とはあまり良い関係を保てていないんです。まぁ勿論、それは私のせいでもあるのですが。
私の13年…少なくとも7年間は、親のせいでぐちゃぐちゃに掻き乱されました。でも、もういいんです。親が居なくとも、今なら自立出来るかもしれないって、そう思うんです。

…お察しの通り、自立できる道は、親を必要としない…親が邪魔となる世界です。今しか自分の気持ちに素直になれる時がない気がするんです。今しか大事なものを捨てられる気がしないんです。


それに…親すら殺せない人を、首領は必要としません。親すら殺せない自分が、この世界で生き抜けるとは思っていません。この世界で生きていくなら、家族なんて持ってはいけないと思うんです。

馬鹿馬鹿しいと思われますか？別に思っていただいて構いません。でも今なら…

親に束縛され、誰とも喋ることを許されなかった、弱い自分に…
然様ならを言えると思うのです。｣


全てを喋り終わった私は、少しだけ吐息を荒らげる。

此処で昔何があったか聞いてこない中原さんは、きっととても優しいのだろう。

｢協力してやってもいい。確かに親を殺す覚悟が無い奴はポートマフィアには不要だ。

だが、本当にいいのか？
お前がまだ綺麗な世界に居られるかもしれない可能性を捨てるつもりなのか？｣

｢もういいんです。綺麗な世界に居たが為に親のようにはなりたくありません。

それに私は…
世界の裏側が知りたい。｣

はあ、と溜息をつき此方に真剣な眼差しを送り直した中原さんの瞳には、恐らく何人も殺してきた人でないと持つことが許されない｢孤独という名の武器｣が握られていたように見えた。

｢手前は金輪際普通の人間として愛される道を選べない。それでも良いのか？

なら、協力してやる。｣

作者より(読み飛ばし推奨)→←人殺し、とは。

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