君と私の…… (ページ16)

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貴方side

羽生さんって、とってもスマートにエスコートしてくれる。
私の荷物をさっと持ってくれて、ドアも開けてくれて。あんまり申し訳ないので、何度か荷物を返して下さい。と言ったけど
「俺にエスコートされるの、そんなにイヤ？」
語尾にイライラがみえるような口調で言われてしまった。
重いものを持たせてしまって悪いから、返して欲しかったんだけど。
「なんとなく居たたまれないって気持ち、解らなくはないけど、女の子はニッコリ笑ってありがとうって言えばそれでいいんだよ。」

羽生さんの言葉が、すとんと胸に落ちた。
そっか。色々言わずにありがとうって言えばいいんだ。
「はい、ありがとうございます」
恥ずかしくて、赤くなってたと思うけど。
彼は満足げに笑って頷いてくれた。

車に乗ると、ダッシュボードに置いてあった、眼鏡をかける。きれいなブルーのフレームに
淡いブルーのレンズがセットされた、おしゃれな眼鏡。
「眼鏡、掛けるんですね。」
「目は悪くないけどね。運転中にバレると付けられる。」
付けられるって、尾行？犯罪じゃないの？
有名人って、大変。コンビニにも、寄れないじゃない。
「大変、ですね。」
「仕方ないよね。ほんとはほっておいて欲しいけど。」
いつも誰かの視線に曝される。それだけで、かなりのストレスなはず。なのに、いつも、凛と立っている。
彼が心を許せる場所はあるんだろうか。

行き着けだと言っていたお店は、ジムからそんなに遠くない住宅街の中にあった。
駐車場に着いた時、私はまた一人で車から降りようとして、彼に待ったをかけられてしまった。
「お手をどうそ？」
王子様のような仕草で差し出された、きれいな白い手。お姫様のようなエスコートをされて、嬉しくない訳ないけれど。でも、照れくさくて。恥ずかしくて。
「降りないの？」
彼が声をかけて繰れるまで、放心してたみたい。
覚悟を決めて、彼の手に自分の手を乗せる。

やっぱり男の人なんだなって思った。私の手が小さく見える。そっと握ってくれた彼の手がすごく優しくて、胸がいっぱいになった。

優しい笑顔のママさんが一人でやっていると言う、優しい雰囲気の居心地の良いお店。
フィギュアスケートの皆さんがお忍びで来るのも、よくわかる。

「えっと、篠田さん？」
ママさんが優しく声を掛けてくれる。
「はい。」
「うちはみんな名前呼びなんだけど、良いかしら？」
「はい。全然。Aって呼んでください」
「Aちゃんね。」