サカナは空を見上げた 【爆豪勝己】

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雨の中を駆け出して ほんの4.5分だろうか。

ローファーの中にまですっかり水が入ってきていて
靴下までぐしょぐしょに濡れていた。


「爆豪くん、靴がきもちわるい」

「もう着くから我慢しろブス」



一蹴するように行われたそんな会話のすぐ後
″ 爆豪 ″ と書かれた表札が立派に掲げられる家の前に着いた。

自宅の扉に手をかける彼の後ろで、私は濡れた髪をパパッと手早く整える。




「おいクソババア ！ 外雨降ってんだからタオル持ってこい！」


そんな私の考えもよそに
玄関口で大きな声を、それも汚い言葉を吐いている彼。



私は一瞬呆気にとられながらも後ろに立っていると
ドタドタドタ！と大きな足音が聞こえてくる。

奥の扉がバン とさらに大きな音で開かれ、そこから出てきたのは 目の前に立つ彼と瓜二つの顔だった。




「こら勝己ィ！ アンタ親に向かってババアとか言ってんじゃ、な…」


キツく釣り上がっていた彼と同じ紅い眼は
私の姿を確認すると 呆気にとられたものになった。




「…あの、初めまして 美潮Aと申します」





爆豪くんの後ろからひょこりと顔を出して挨拶をする。


となりで爆豪くんは「おい聞いてんのかババア」なんて、シャツの裾を絞りながら 更に言葉を重ねているけれど

彼のお母様は全く聞こえていないようだった。






「勝己が女の子連れてくるなんて！！チョーカワイイ！！！！キャー！！！」

「んむ」



勢いよく駆け寄ってきたお母様は 私の頬をぎゅむっと両手で包んだ。

「勝己と付き合ってるの！？本当にすっごく可愛い！私ね娘も欲しかったのよー！！」
なんて濡れた私を抱きしめたりと、なんとも予想外の歓迎をしてくれる。




「やだ、濡れてるじゃない！
勝己アンタ先に言いなさいよ風邪ひくでしょ」

「最初っから言ってんだよクソババアが！！」

「親に向かってババアとか言うなっつってんでしょ！？」





目の前で繰り広げられる展開に頭がついていかず
隣で始まりだした親子喧嘩を横目で見ながらくしゃみを1つした。


へっくしゅん。






「ごめんね騒がしくて…濡れたままじゃ本当に風邪を引いてしまう、お風呂場まで案内するよ」




それが合図になったのか、どうか。

優しそうな笑みを浮かべる男性が また部屋の奥からふわふわのタオルを持って顔を出し、私にソレを手渡した。
ふんわり いい匂い。


「…おじゃまします」

「はい、どうぞ」








《 彼の生活に踏み入れた一歩 》

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