サカナは空を見上げた 【爆豪勝己】

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「急に降って来やがったな」


クソ、と舌打ちをしながら空を見上げた彼の髪はぺしゃんこに濡れていた。

かく言う私もびしょ濡れなのだが
隣でイライラしている彼を見れば、ため息さえつけない。




すでにシャッターを閉めていた本屋の屋根下へ駆け込んだ私たちを笑うように、雨脚はどんどんと強まっていった。
ああ、どうやって帰ろうか。


「…お前、髪と眼の色変わってんぞ」


ふと 空を見上げていた筈の彼の視線がこちらを捉え、私は言葉通りに自分の毛先をつまんでみせた。

いつもの黒ではなくあまり好ましくない紅にかわっている。





「ああ、少し濡れたからだろうね」

全身濡れたわけではなさそうだから良いが
心なしか足までチクチクと痛み始めた気がした。

面倒な自分の身体にため息をつきたくなったが、じ とこちらを見ていた彼が



「やっぱ綺麗だな、それ」



表情1つ変えずにそんな事を言うものだから
なんとも言えない気持ちが心を締め付けるだけだった。

どうしていいか分からなくて
ただ自分の髪をくるりと指に巻きつけて誤魔化す。


爆豪くんはとてもずるいのだ。



「…雨、止みそうにないね」

「…お前んち こっから大分遠いだろ」

「そうね どこかで傘を買えればいいのだけれど」



肩を竦めてそう言葉にする。
こんな時 八百万さんのような個性があれば悩む事などないのだろうなあ、なんて考えながら。

屋根下からス、と出した手には これでもかと雨粒が降りかかった。





それを静かに見ていた隣の彼は、形の良いその唇を薄く開いた。




「俺んち、こっから近ぇけど来るか」




こちらを見る事もなく言われたその言葉に思考が働かず
きっかり10秒は沈黙が続く。

ハッ、と言葉の意味をようやく理解し 固まっていた口を動かした。





「いや 突然ではご家族の方にも悪いだろう。
私は走って帰るから平気…」


今にでも走って帰ろうかと一歩足を踏み出すと
グイ、と後ろに身体を引き寄せられ バサリと何かを頭から被せられた。


それは とても 彼の甘い匂いがした。



「拒否権なんかねえよ馬鹿が、行くぞ」


被せられたソレが彼の上着だったと分かったのは
先に雨の中を進む姿が白のシャツ一枚だけだったからだ。


なんとも横暴な優しさに ギュ、とそれを握り
仕方なくその後ろ姿を追いかけた。




《 慣れない優しさは熱い 》

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