検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:580,595 hit

◎ 28 ページ28

「お前、昼の授業から元気なかったろ」


じ、と私を見据える彼の瞳に捕まった。
それに惹かれるように 私は浜へと歩を進める。

自分の靴をひょい、と持ち上げて近くの大きな岩の上に飛びのった。



「…お見通しね」


肩をすくめて言いながらその場に座り
ぶらぶらと脚を遊ばせて乾かしながら 沈み出した夕日に目をやった。

夜がもうそこまで来ていた。



「本当の姿で個性を使えないのって、なかなか窮屈なの」


目を瞑って言葉を紡ぐ。



「なら お前、此処に来るときは絶対俺を呼べ」

「…1人で来れるけれど」

「そんなん聞いてねえ
これはお願いじゃなくて命令だクソ、分かったな」



なんて横暴なんだ。

いつもならそう思う言葉と態度だけれど
彼の表情は ″命令″している人がするモノではなくて、また私は すんなりと頷いた。


「本当の姿で個性使えばいい、俺が相手してやる」


ニ、と不敵に笑った彼は
どこか私を慰めてくれているようだった。

私はすっかり乾いた脚を思い出して、岩からぴょん と飛び降りた。



目線がまた 彼よりも低くなったその瞬間
それに、と言葉が続く


「…んな広いとこで、1人は淋しいだろ」



海を見つめて呟いた彼の小さな声が耳を掠める。


私はつい バッ、と彼の顔を見上げてしまった。

それでも視線が交わる事はなく 「そろそろ行くぞ」と、踵を返し 背を向けた彼の言葉の真意は分からなかった。


けれど その言葉は私の心を力強く掴んで
少しの間 心臓が止まった気がした。



「オイ、さっさと来ねえと置いてくぞブス」


先程までとは違う、なんとも憎らしい声が離れた場所から届き
私は 止まっていた脚を動かす。

歩幅を合わせて 彼と一緒に海浜公園を後にした。




「もう道は分かるよ、ありがとう」



もう自宅までは 目と鼻の先だ。
まだ送り届けようとしてくれる彼をやんわりと制し、此処までで十分だという旨を伝えた。

不服そうに片眉を上げた彼を見て すこし笑う。




「…あしたの朝、8時に此処な」



一呼吸置いてからそんな言葉だけを残して
「じゃあな」 と後ろ手にヒラヒラと手を振る彼。


「…学校、一緒に行くって事だろうか」


自惚れなのかもしれないその呟きは少し照れくさい


それでも彼は
自分の家とは方向も違うこの場所まで送ってきてくれたんだな、と 遠くなる背中にそれだけは確かに理解した。





彼はとても分かり辛くて、とても分かり易い





《 心臓の火傷はじんじんと疼くばかり 》

◎ 29→←◎ 27



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (443 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
640人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

キリ - 美潮ちゃんの見た目聞くとアリ○ル見たいですけど似せたんですか?とっても面白いです (2018年1月7日 5時) (レス) id: e989008aff (このIDを非表示/違反報告)
西垣(プロフ) - アカネ先輩さん» とても嬉しいお言葉ありがとうございます!! ぜひ読みに行かせて頂きますね◎○続編になりますが、そちらで更新頑張りますのでお付き合いくだされば嬉しいです ありがとうございます! (2017年5月21日 21時) (レス) id: ca90c69f0b (このIDを非表示/違反報告)
アカネ先輩(プロフ) - めっちゃ面白い…タイトルに惹かれて一気に読みました!作者さんの書くかっちゃんがかっこいいです!私もかっちゃんと轟くんの短編書いているのでよかったらみにきてください!更新楽しみにしてます(´˘`*) (2017年5月21日 2時) (レス) id: ad572bf5b5 (このIDを非表示/違反報告)
西垣(プロフ) - みいるさん» すごくすごく嬉しいです!!!もっと楽しんで頂けるように頑張ります、シリアス回続きますが根気強くお付き合いください…(泣)ありがとうございます!◎○ (2017年5月19日 22時) (レス) id: e58a020c03 (このIDを非表示/違反報告)
西垣(プロフ) - るるるさん» ひえええ(泣)恐れ多い…ありがとうございます…頑張ります…(泣) (2017年5月19日 22時) (レス) id: e58a020c03 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:西垣 | 作成日時:2017年4月16日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。