サカナは空を見上げた 【爆豪勝己】

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「…君はそんなに怒るけれど、私はこの個性を誰にも見せたことがないんだよ 」



表情のないソイツの 少しだけ哀しげなカオ

このご時世にそんな事があってたまるか、という想いを込めてギッ と睨んでやれば
「訂正、この姿を見せた事がないの」

と言葉を正した。




「これが私の弱いところ、だよ」

「…… テメエの個性詳しく教えろや」

「面白い話では無いけれど」

「黙れカス」




女は渋々というように ふわりと右手を踊らせる。

合わせるように周りの水は雫となって宙へと浮き、ふわふわとその場を漂った。



「自然のものなら風も水も好きに動かせる
身体が全て濡れると、この姿になっちゃうんだけれど」



バシャン、と下ろした手が水面を叩けば
重力に逆らっていた雫たちも本来の場所へと戻る。

使い方を工夫すればかなり強い個性だな、なんて考えながらそれを見つめた。





「…今日、ヒーロー基礎学あんだろ」

「なあに、それは？」

「個性使う授業だよ予習してろカス
そこでもお前は、その格好を見せないっつーのかよ」




俺のその言葉に
当たり前だろう 、とでも言いたげな表情でソイツは頷いた。

そしてまたも周りの水を操り 俺と自分だけを包むドーム状の密室を作り グッとこちらへと近づく。

覗き込まれるようにされるその距離に 思わず仰け反って逃げたくなるが、それを見越して水を操ったのかと思うと
やはり 全て見透かされてるようで腹が立った。



　



「だってこれは、君にしか見せない約束でしょう」



　



囁くようなその声

花が綻ぶような笑顔


お前、そんな顔して笑うのかよ なんて
馬鹿みたいに思考が止まっていた俺はハ、と我に帰って、別に見惚れたわけじゃねえかんな！！ なんて自分の頭を手で乱した。

…なんなんだこいつは、疲れる



「… 帰る」



背を向けてそう言った俺の頭へ バサ、と何かが投げられる。


「ありがとう 返すよ」

それが貸していた俺の上着だと分かった時、投げるなと怒鳴ってやろうかと思ったのだが

もうソイツの方を振り返られなかった。


つまり、また馬鹿みたいな格好をしてるわけなのだから。




「テ、メエなあ…ッ、」

「なんだ まだ何か怒っているの？」


「…ちっ、」



本当に分かっていないような声に腹が立ち、俺はそれを無視して海へと潜った。



　


ザブン、









( またも波に押し戻されたことは言わずもがな )






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