613pager “しあわせな箱庭の崩壊” ページ29
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感情が湧き上がって、泣いてしまった私を見て、
幼い少年は私に近づき、そっと抱きしめる。
“大丈夫ですよ”
“僕も、少し前までは誰にも触れる事も出来きなくて、”
“悲しくて………ここに居たら駄目だと思って”
“でも、僕を支えてくれる人達が居てくれた”
“事情は分からないけれど………”
“貴方にも帰る場所があるなら”
“きっと待ってくれている人達がいますから”
………分かるよ。
彼が、ここの空間を“幸福”だと思える理由が。
こんなにも、温かい人だったんだ。
優しい主、だったんだ。
触れた感触は無かったが………分かるよ。
とても、いい主だって。
この子がどれほど、貴方の大切な人間だって事を。
優しくしないでと言いたかった。でも言えない。
こんな温かい場所を、私は………
壊さなければならない。
──お願いします──
──どうか、どうか………あいつを──
──たすけてやってください──
『………』
“落ち着きましたか？”
『………ありがとう』
私はそれでも選択をしなければならない。
私はゆらゆらと立ち上がる。
そして、私は切国さんに向き合う。
『私は、貴方に会いに来た。
赤神本丸の、山姥切国広に』
切国「………は？」
『貴方は帰らなければならない。
ここに居てはいけないの。
ここは………貴方が作った幻想。
貴方が見ている夢』
切国「何を言っている………？
帰る？ここが俺の本丸だ。帰る場所だ」
私は唐突に本題に切り出した。
勿論、切国さんはいい顔をしない。
懸念したように私を睨み、そう反論した。
『なら、聞く。貴方はここに居る
審神者の名前、言い当てられる？』
切国「はあ？………そんな事を聞いて何になる。
ここは……………
？………あるじ、の、……名、は………」
私が問うと、最初こそ私に睨んだまま答えようとした彼。
しかし、答えられない。切国さんが目を見開いて、
口元に手を伸ばす。
まるで、信じられないと言わんばかりに、
驚いた顔をしている。
切国「主、の………名前………何故、だ。
分からない………何故、思い浮かばない、？？」
『………この審神者の声、顔、気配………
分からないでしょう？
それが証拠。貴方はここの住民じゃない。
ここは幻想の世界。現実じゃないのっ』
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2021年11月23日 20時
