弐佰肆拾漆 ページ8
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冬矢「………ねぇ、もう少し…………
そっちに行ってみていい、かな？」
長谷「？あ、主………？」
その日、主からそんな事を言われた。
勿論俺は構わないが、声が震えている。
冬矢様がどれ程勇気を出して言葉にしたか、
言われなくても分かる。
あれ程頑なに人と接する事を躊躇われていた主が、
自ら………俺達に歩もうとしてくれている。
長谷「自分は構いませんが………どうしてまた」
冬矢「最近、調子が良いんだ。
部屋に猫が迷い込んだ時に気づいたんだけど……
今なら、大丈夫な………気がするんだ。
試すようで、ごめんね。
でも、僕も君達と………一緒に居たい」
長谷「！…………山姥切」
切国「構わない。俺達は大丈夫だ。
自分を信じろ、主」
冬矢「ｯ………」
冬矢様の息を呑む音がした。
キシ、キシッ………と、軽い足音を立てながら、
気配が近づいてくるのが、扉越しに聞こえる。
気配が、強くなる。
そして…………
キィ………
長/切「「！！」」
冬矢「はせ、べ………ま……んば………？」
切国「あ、主………っ」
長谷「主！」
離れの扉が、開かれた。初めて、顔を見た。
幼い主の瞳が、俺達を見る。美しい白銀の瞳。
名前の通り、銀世界の瞳。
主は、目と鼻の先。
冬矢様は俺達を見上げ、
ハラハラと涙を流し始めた。
冬矢「ｯ…………あ、」
切国「主」
冬矢「あ、はは………ははっ。
初めて、見た感じだよ。二振りの、顔………
そんな顔を、してたんだ、ね」
長谷「……ええ」
冬矢「もっと、顔をよく見せて。
さ、触れる、かな？」
小さな手が、俺に伸ばされる。
俺は彼の背に合わせ、屈む。
不思議と恐怖はない。
強い霊力は、穏やかで………
心地の良いものだった。
そっと、主の手が………俺の頬に触れた。
温かい………主の手から体温がじんわりと
俺を満たしていくようだった。
そこで限界が来たのだろう。
主は顔を歪ませ、それでも心から嬉しそうに
大粒の涙を降らせながら泣いた。
冬矢「ふふ、長谷部………
長谷部は、綺麗な藤色の目だね。
その目が………見たかった。
見たかったよ、ぉ…………っ、ﾋｸﾞｯ……」
長谷「俺もです、主………」
冬矢「う、うっひぐっ………
あ、あああっ！うわぁぁぁあああっ！！」
ようやく、ようやくその手を取ることが………出来た。
この日の事は、忘れない。
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2020年10月29日 14時
