弐佰漆拾伍 ページ36
倶利伽羅side
字が、思うように書けなくなった。
簡単な字を書く事しか出来なくなった。
先の長谷部との一戦で、
その分の代償である“知性”が持っていかれたようだ。
ここで、余計な事をこいつらに考えさせ、
刃を鈍らせたら………
こいつらの生死を左右させる羽目になる。
元から俺は脱出を独りでやるつもりだった。
馴れ合いもしない。
だから、俺を気にする必要はない筈だったのに。
鶴丸「伽羅坊よ、正直に答えろ。
………君、もしかして───
“字が、分からなくなって来ている”じゃないのか？」
国永に見つかるとは。
こいつのそう言う所が、俺は嫌いだった。
普段は掴み所がない癖に、
こう言った小さな事には見過ごさない。
何をしても、どう隠しても、
国永には直にバレてしまう。
力の差を思い知るようで、嫌いだ。
倶利「(ｸｿｯ………国永の奴………！)」
燭台「倶利伽羅、それは本当なの………！？」
鶴丸「………さっきの戦闘でか」
倶利「(どこで力を使うかは、俺が決める事だ。
余計な事をするな国永っ！)」
鶴丸「…………君の選択を咎める気はないさ。
邪神との契約をする事に後悔していないなら、
それは君が歩んだ、選択の道だろう。
だがな伽羅坊。勇敢と無謀は違うぜ？」
穏やかに、そしてまるで宥めるような声音で
国永はそう言った。
それから俺の腕を掴んでいた手を離す。
すると国永と入れ違いに、光忠が近づいて来た。
燭台「何で、君はいつもそうなんだ……」
倶利「…………」
燭台「何度だって言うよ。
僕は、君を失いたくない。
君まで失えば、僕は本気で自分を許せなくなる。
君はもっと自分を大事にしてくれ。
その意味が分からないなら、
せめて、僕の為だと思って………ね？」
倶利「…………」
燭台「………お願い」
倶利「…………………………ﾊｧ」
正直、俺自身………どうなってもいいし、
どうでもいい。
光忠を堕としたのも、夏田がああなったのも、
元はと言えば俺のせいだ。
………あんたまで、そうならなくても
良かった筈だった。
俺はただ…………
“僕達の本丸においで”
…………ただ。
俺自身に、従っただけだ。
何としても、俺は光忠をここから出す。
倶利伽羅side〜end〜
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2020年10月29日 14時
