弐佰漆拾壱 †記憶の片隅† ページ32
山姥切side
切国「…………ぅ、」
燭台「！やあ、山姥切君。良かった、気がついた？」
目が覚めると、辺りが眩しかった。
今まで洞窟の中に存在していた集落に居たからか、
目がまだ明るい場所に慣れてはいない。
どうやら俺は、燭台切に背負われていたようだ。
俺が目覚めた事に気づいた燭台切は
穏やかな声音でそう言った。
鶴丸「お、目覚めたかい？体は大丈夫か」
切国「………嗚呼。燭台切、下ろしてくれ……」
燭台「あ、うん。今下ろすよ。
でももう動いて大丈───
…………どう、したの？泣いているじゃないか」
燭台切の言葉に、俺はようやく自分の目から
雫が流れ出ている感覚に気がついた。
嗚呼、あんな夢を………見たばかりに。
随分と長い夢を見ていたな………
『兄さん達、鶯丸と大倶利伽羅で
先の偵察を見てきてたよ。
こっちは全然大丈夫だ………った……
…………切国、起きたんか』
鶴丸「嗚呼、たった今な」
『………兄さん？大丈夫？』
切国「……夢を、見ていた。
多分、昔の夢だ。ここに来る前の。
酷い夢だった…………主も出て来た。
だが、主の名前も顔も、思い出せない」
確かに存在していた、記憶。
力の代償に支払ったモノ。
よりによって………主の名と顔を忘れたとは。
夢の中では、あんなにも必死に………
呼んでいた筈……だったんだがな。
切国「…………長谷部、は？」
鶴丸「俺達が来た頃には立ち去ったようだった。
流石に分が悪かったんだろう。
室内戦だったしな」
鶯丸「だが、あの都に長谷部は居るだろう。
どちらにせよ、長谷部があちらに居る限りは
戦いは避けられなさそうだ」
切国「…………長谷部を、
ああしてしまったのは俺だ。
そんな、気がするんだ………」
少しずつ、思い出して来た。
主の顔や名はやはり思い出せないままだが、
長谷部は………術にかかって、
主が裏切った、と洗脳されてしまっている。
長谷部にかかったあの術は、
顕現する際から縛られていた物だ。
例え主がそんな事をする筈のない人間だと
分かっていても、その長谷部の“意志”を
塗り潰してしまう程の術。
俺はあの日、何も出来なかった。
仲間も、主も………一番だった相方でさえも。
それを後悔しながら、自分に失望したまま、
俺はここへと堕ちたのだ。
なら、長谷部を止めるのは俺だ。
俺でなくてはならない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 55人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2020年10月29日 14時
