弐佰伍拾捌 ページ19
主は優しい人間だった。
その気になれば、他者を黙らせる程の
力を宿していたが、
その力を良しとはしなかった。
切国「………止めろ。頭を、撫でるな……」
冬矢「とか言いながら、撫でさせてくれる君は
やっぱり優しいね」
切国「あんた本当に変な奴だな………
俺のような写しを選んだり、撫でたり………」
冬矢「嫌？嫌なら勿論止めるけど………
だって、今まで独りだった僕と
一緒に居てくれたから、嬉しくて。
撫でたら、君の顔がよく見えるから」
切国「………」
冬矢「あ。顔、あげてくれた」
切国「見るな」
主はまだ小さな子供だった。
そんな小さな子供が、寂しくないはずがない。
主の傍に居た人間は誰も居なかった。
背中がより小さく、寂しく感じていた。
そんなあんたに、写しの俺に、
何が出来ると言うんだろう。
俺は刀剣だ。寂しさの埋め方も………俺は知らない。
切国「何であんたは、俺を選んだんだ」
冬矢「………何でかな。僕に刀の良し悪しは
正直わからないよ………でも、君に触れた時、
どこか………悲しそうだったから放っておけなくて。
君は自分を写しって言うけど、
僕は君しか知らない。君は君でいいんだよ」
切国「………！」
冬矢「うーん、これじゃ、答えにならないかな？
ごめんね、上手く言えなくて」
主はそう言って、笑っていた。
………何で、何であんたは………笑えるんだ。
───────────────
冬矢「ひぐ、ぅう…………ぁ、ああっ！！」
それは突然だった。
その日、俺以外の刀剣の顕現が、
一斉に解かれた。
宿っていた刀剣の魂が、消滅した。
主の力によって、耐え切れなかったのだ。
冬矢「どうして、どうして皆っ！！
いま、今までは………こんな、こんないきなりっ
こんな事、無かったのにっ！！」
主は傍に居た信濃の手を握ろうとしていたようだ。
だが、傍に居た筈の信濃は消えていた。
残されていたのは本体のみ。
魂そのものを喪失したのだ。
もう二度と、顕現は出来ない。
二度と…………
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2020年10月29日 14時
