佰陸拾玖 ページ10
燭台切side
燭台「ﾊｧﾊｧ………なん、で」
倶利「どう、なって、る………」
倶利伽羅と万屋から帰った時、
本丸の異変に気づいて僕達は正門を潜る。
そこに広がっていた光景は、
今でも脳裏に張り付いている。
見渡す限りの、赤。
柱も庭も、壁も襖も………全て赤い血が着いていた。
何が、何があったと言うんだ。
倶利「光、忠………」
燭台「あ、主を探さな、きゃ………
何が、何が起きて………
だ、誰かっ！！息がある子は！
まだ、折れていなかったら、返事をしてくれっ！！」
その日は、やたら本丸が広く感じたな。
誰も、居ない………あるのは折れた刀身と、血溜まり。
時間遡行軍に襲撃を受けたのか。
それとも、妖魔が入り込んだのか。
何れにせよ、僕と倶利伽羅以外の刀剣は、
折れた状態だった。
倶利「蜂須賀！！」
燭台「薬研君っ！乱君っ！！
だ、誰か………返事を………っ！
主、青空君っ！！誰、か………」
??「誰、か………居るの、か」
その時、掠れた声が僅かに僕達の耳に届く。
声がする方へ振り向けば、そこに初期刀である
蜂須賀君が居て………
僕達を見つけると、
少し安堵した顔をして倒れ込む。
僕らが駆けつけて、倶利伽羅が彼を抱きかかえると、
彼の自慢の戦装束が、赤く染まる。
蜂須「よか、た……君達、だけでも」
倶利「何があった！」
蜂須「主、が………何者かの、手によって………
蜘蛛、の………妖魔へと、変えられ、た」
燭台「妖魔……って…………」
蜂須「あの子、が、あんな真似を、する筈が、
ないん、だ………何者かの手によって、
彼女は………すまな、い……燭台切……大倶利、伽羅」
燭台「そん、な」
蜂須「………止められ、なかった。
優しい、あの子、に………罪を、着せる、など。
この、俺、が………」
バキンッ
そう、言い残して……蜂須賀君は折れた。
倶利伽羅の手に残ったのは、
彼であっただろう刀身のみ。
今にも泣き出しそうな空の雲を、
虚しくその刀身に写すだけで。
燭台「蜂須賀……く………どうし、て……っ」
煩いほど、静かな時間が………過ぎていった。
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2020年9月29日 18時
