漆拾肆 ページ35
鶴丸side
『…………出たいよ。ここから出たい。
暗いのも、独りになるんも………嫌や』
その時、俺は初めてAの顔が歪んだ姿を見た。
悲痛な表情だった。茜色の瞳には影があり、
その瞳に宿した光景は、
きみにとってどれ程の絶望だったのか。
彼女はこの世界の住人。
ならきみもまた、罪を背負っていると言うのか。
しかし、罪人がこんな顔をするだろうか。
何か理由があるのではないか？
………まあ、それを聞く権利は俺にはないだろうが。
少しの好奇心と興味に惹かれたが、
それを聞くのは野暮………
いや、不謹慎に思えた。
鶴丸「きみ………」
『ごめんな。うち、兄さん達を利用してたねん。
出たい。早く出たくて、早く現世に行きたくて。
せやから、うちは全力で兄さん達を
助けたいと思っとる。
うちにあるのはこれだけ。
必ず、生かして兄さん達を送るから………』
出会った時から彼女は独りだった。
あの桜の大木から舞い降り、出会ったあの時から。
彼女には共に居た誰かが居たのだろう。
親しかった誰かが居たのだろう。
それらを失う恐ろしさを、
彼女は知っているのかも知れない。
そうでなければあんな顔は出来やしない。
鶴丸「…………そうか。
なら、一緒に行かなくてはな」
『！』
鶴丸「きみがいなければ、
俺達はここまで来れなかったし、
下手をしたら死んでいた。
俺達にはきみが必要なんだ」
『兄さん………』
鶴丸「さて、次に行くか。
もうこの都には用はない。
社もなかったしな」
燭台「鶴さんの主はお人好しだったのかな」
鶴丸「かもな」
切国「あんたらしいな」
鶴丸「だろう？ほらA、きみがいないと
迷子になってしまうなぁー。
道案内してくれなきゃ何処へ行ったらいいか
分からないぞー」
いつか、分かる日が来るだろうか。
この小さな鬼の子の秘密が。
知れたその時、俺は何を選択するだろうか。
…………何かを………失うことになるだろうか。
『………兄さんら、前の都に行く気なん？
次の都はそっちやないで』
だが俺がきみが気に入ってしまった。
共にこの地獄から出たいと願っている。
きみとの旅は、嫌いじゃない。
だからどんな形であれ、
きみとこうして過ごす日々を、
大切にしたい。
もしもきみを知れたなら、
それはそれで悪くないな。
鶴丸side〜end〜
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2020年7月6日 12時
