陸拾玖 ページ30
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…………脅しには屈しない。
目の前のは鶴さんじゃない。
鶴さんの姿をした偽物。
僕は本体を構えた。
偽物の鶴丸国永は僕に手を伸ばして
縋るように近づいてくる。
鶴丸《いく、な………一人にしないで、くれ》
燭台「…………君じゃない。
君は、鶴さんじゃない。
じゃあね」
ザクッ！！
僕は隙を見て、躊躇いもなく太刀を突き刺した。
それと同時に鶴丸国永だったモノの体から
もう一振りの刀の切っ先が
僕の腹部ギリギリまで貫いていた。
そして鶴丸国永の姿から、
日本人形の紅葉君の姿へと戻る。
紅葉《一人、に…………しない、で……》
その言葉を最期に、日本人形の九十九神は壊れた。
まるで、人にまだ使われたいと願う
悲しい声音だった。
そう、君は人から捨てられてしまった
九十九神だったのかな。
なら君はどこかで人をまだ信じていて、
寂しくて、鶴さんを攫ってたのかな。
燭台「………あ、鶴さん」
鶴丸「！今度は………本物の光坊だな。
何だ、同時にこいつを刺したのか。
いやいや、きみが無事で良かったぜ。
てっきりきみが偽物のきみに
囚われてしまったのかと」
燭台「あのね、捕まってたの鶴さんだからね？」
鶴丸「え、マジか」
日本人形が壊れ、その背後から
やって来たのは鶴さんだった。
うん、本物っぽいかな。
口振りもこの人形の九十九神に弄ばれた事は
自覚しているようだし。
(自分が狙われていた事は
分かんなかったみたいだけど)
僕は今までの出来事を語ると、
鶴さんは少し苦虫を噛むような表情になる。
鶴丸「二人してこの九十九神に
惑わされていたようだな………
話を聞けばこの書物庫に入った瞬間から
俺と光坊は異空間に飛ばされていたときた。
………まさかそんな序盤から
騙されていたとは驚きだぜ」
燭台「この人形、鶴さんには“僕”に見えて、
僕からは“鶴さん”に見せていたみたいだね。
でもその幻覚を見せていたのはこの子じゃない。
別の………あの“彼”だ」
鶴丸「彼？」
僕はさっきの奴が先程までいた場所を見る。
でもそこにはもう何も居なかった。
ただ、僕と………恐らく鶴さんも、
同じタイミングで人形を切った時、
乾いた拍手が聞こえた。
まるで“楽しかった”と言わんばかりに。
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2020年7月6日 12時
