【刀剣乱舞】その人間、縁結び始めました

†参拾参† “牙” ページ36

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夜。今宵は満月。
月明かりがいつもより増し、
夜の本丸を照らしている。

静まり返った本丸で聞こえるのは
木々の擦れ合う葉の音と
きしきしと聞こえる、誰かの足音。


廊下には小狐丸がそこにはいた。
夜目が効かない彼にとっては今宵は都合が良かった。
鼻も効くが故に難なく審神者の部屋へと足を運ぶ。









小狐「…………おや、主様(ぬしさま)」

『…………！小狐様』









角を曲がればもう部屋はすぐそこだった。
だが、桜の香りと共に見つけたのは
寝巻きの着物を着た彼女が
部屋の前の縁側に座っていた。

てっきり眠っていたと思っていた小狐丸は
予想外の光景に少し目を細める。







小狐「嗚呼、ご心配には及びません。
本体は置いて参りました故。
しかし部屋の前で何をしておられる？
今宵は冷えまする、部屋へとお戻りになられては？」


『いえ、今宵は満月ですから月見をしていたのですよ。
何だか眠れなくて…………』


小狐「…………左様ですか」









小狐丸の血にも似た赤い瞳は
すっと彼女を見据えている。

それは隙を探るような、獲物に狙いを定めるような
怪しい光を帯びている。


そんな事を知りもしない彼女は
ふわりと笑ってぽんぽんと
隣に座らせるように促す。








『小狐様もどうぞ』

小狐「………………？」

『ここは良く月が見えますよ』









またもや予想外な反応に、
小狐丸は少し疑問を抱いたが、

まあこれも油断させるにはちょうど良いかと
言葉に従って彼女の隣に座る。

座ると桜の香りが一層濃くなり、
小狐丸は少したじろいだ。
彼女特有の“神や妖が好む香り”は
近くで感じれば感じるほど、
心地のよい高揚感を感じさせた。









小狐「確かに今日は見事な月でございますな」

『はい』









彼女は小狐丸を見上げる。狩衣を身に着けた彼。
夜の、しかも月の下で見ると余計神々しさを感じる。

彼女には神の中では顔は広い方だが、
こうして近くで見ると、
美しい白髪は一層輝きを増し、彼を良く際立たせた。









『小狐様は月が似合いますね』


小狐「そうでしょうか。
己では良く分かりませぬが…………」


『月のように魅入られてしまいそうな、
とても魅力的な何かを感じます』


小狐「お誉めいただき、感謝いたします」









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