弐拾弐 ページ10
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その日は、何だか実弥さんの様子がおかしかった。
いつものように私は実弥さんのお宅にお邪魔していたのだが、
彼は何だか機嫌が少し悪いみたいだった。
何をしていても彼は私をじっと見ていて、
どうしたのかと聞くけど、彼はそっぽを向いて
「何でもない」という。
私は何か彼に失礼な事をしてしまったのではないか。
次第にそういう不安が募っていった。
『【お腹空いてませんか】』
「………別に」
『【してほしいことはありますか】』
「特にねェ」
…………話してくれないと、こちらは話せないから、
伝えなければいけない言葉も伝えることが出来ない。
勇気を出して、私は彼の着物の袖を少し引っ張り、
紙を差し出す。
『【私、なにかしてしまったのでしょうか】』
「何でそうなるんだァ?」
『【怒っているように見えます】』
「怒っちゃいねぇよ………いいから放っておけ」
言ってみても、はぐらかされた。
もどかしい気持ちと、
焦る気持ちが交互に混ざるような感覚がした。
どうして?昨日から実弥さんの様子がおかしい。
『【何かしてしまったのなら謝罪します。
でも私は頭が良くないので、
何がいけなかったのか分からないのです。
分からないまま謝罪するなんて、無責任な事出来ません。
だから教えてください】』
「チッ、聞こえなかったかァ?放っておけっつってんだろォ!」
いつもであれば、私の言葉にもちゃんと答えてくれていた。
いつも、私の字を目で追って答えてくれていた。
話してくれていた。
でも、今の実弥さんは目を合わせようとしてくれない。
話そうとしてくれない。
分からない………分からない。
『(言葉が、こんなにも、)』
こんなにも、もどかしくて重いものだと………
声を失って初めて知った。
『ッ…………、』
「!ぁ、待っ──」
初めて、彼から背を向けた。
初めて逃げた。こんなこと、一度だって無かったのに。
喉を潰された時にだって、逃げたことなかったのに。
苦しい、苦しい。
どうして、こんなにも辛いのだろう!?
やっぱり私がいけなかったのかもしれない。
しつこく問い過ぎた?
名前を呼んでもらえて、舞い上がった私だ。
もしかしたら、その態度が気に入らなかったのかもしれない。
彼から「放っておけ」と言われただけなのに………
何故私はこんなにも、悲しい気持ちになったの?
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時