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弐拾陸 ページ6









『(雨………)』








今日の天気は生憎と雨。
いつものように、あの人のお宅へ訪れようとしたのだが、
途中で雨に振られてしまった。

人々が逃げるように屋根の下へと入り、
通りを歩く人は居なかった。
私は逃げ遅れて、お地蔵様が居る社の屋根の下へと逃げ込んだ。
小さなお地蔵様を収める屋根の下は狭くて、
私の着物が半分濡れてしまう。


………どうしよう。雨、止まないな。
声を失ってからこういう不便な事が増えた。
伝えようとしても相手に言葉が伝わらない。
そういった事が多くなって、人に話しかけるのが
前よりも下手になったように思う。

相手を思うと、喋れない私に気を使わせてしまうのが
忍びなくなったりして、結局またドジを踏む。
気をつけたいのだが、どうしようもない。









『(顔が見たいなぁ………)』








ふと、思い出すのはあの人の顔だった。
私の話を聞こうと、音にも出ない私の言葉に
耳を傾けようとしてくれて、時折見せる口角を上げて、
僅かに緩む口元を思い出す度に、嬉しく感じる私がいた。

今日は、会えないか………
あの人も、毎日は嫌がってたように見えたし、
ちょっと日にちが経って、妙に冷静になり始めた部分もある。
そりゃ、毎日来られたら迷惑な筈だ。普通。
切ない雨を見たからか、気持ちも少し沈んでいた。


私はただ、この縁が切れたら嫌だと思ったから、
何かと理由を付けて、あの人の所に通ってただけだ。
………今日は諦めて、宿に戻ろう。



そう思ったときだった。









「………ずぶ濡れで帰る気かァ?」

『!』






「本当、よく会うなァ。うちに来ようとしてたのか」










雨音を弾く傘の音がした。
顔を上げたら、赤い番傘をさして、こちらを見下ろす彼が居た。
驚いて固まっていたら肩を掴まれ、引き込まれた。











「流石に雨の日は来ねぇかと思ったが………
途中まで来てたってか。懲りねぇなァ。
濡れるからこっち寄れェ、傘に入れねぇだろ」


『………ァ、ウ……』


「って、だいぶ濡れてるじゃねぇか。
体、冷やすな………送ってやるから、今日は諦めろォ」


『(手………あったかい……)』











濡れないように傘に入れてくれて、私の方に傘を傾けてくれた。
自分も濡れてしまうのに、
私に気を遣ってくれているのが分かって、
肩を掴まれている彼の手から体温が移り、暑くなった。
そんな、雨の日だった………

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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時

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