弐拾漆 ページ5
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「良く飽きねェな………」
『【まだ通って五日ですが】』
この日も私は彼の自宅を訪れた。
半ば彼も諦めているのか、毎度訪れる私を迎え入れてくれる。
無視してもいいくらいなのに、
こうして迎えに玄関まで来てくれるのだから、
見た目とは違って、やはり優しいのだろう。
『【思いついたのですが、私、料理が得意なのです。
何かお作りしましょうか】』
「料理………」
『………【ご自身で自炊してますか】』
「まあなァ。出来なくはねェ。
だから別に料理は…………いや、待て」
すると、彼は少し考える素振りを見せた。
それから私の方を向き、口を開く。
「なら、頼んで良いかァ？」
─────────────────────
台所を使わせてもらって、手際よく料理を進めていく。
久々だな。こうして料理をして、誰かに食べてもらうなんて。
誰かに食べてもらえる喜びを感じながら、
私はくるくると忙しなく手を動かす。
「器用だなァ？」
『(見られてると少し恥ずかしいな)』
「お前、そういう職みたいなのやってたりするのかよ」
『……………、』
「違うのか………うお、……」
台所なので、私は水に濡らした指で、
まな板の端に“旅”と書く。
「旅をしていた？」
『………、』
「その前はァ」
『──、………。』
「“そば”………蕎麦屋か？」
『………、』
「へぇ……」
出来た。
食事を運んで並べていく。
彼が運ぶと言ってくれたが、御礼にならない。
だから良いといったのだが………結局運んでもらった。
「………いただきます」
彼は並べた食事を前にして、
手を合わせた後で食事を始める。
食事はごく普通の、何処にでもある献立だったが、
彼はしばらく咀嚼して飲み込んだあと、柔らかく笑った。
「旨いなァ」
『(…………良、かった)』
その笑みは、昨日男の子に見せていた微笑みとはまた違って、
綻んだ口元がとても印象的だった、
優しい、優しい微笑みだった。
それを見て、こちらも胸の内が温かくなった。
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2023年7月1日 1時
