参 ページ29
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その日、彼は布団から起き上がる事が出来なかった。
朝、様子を見に部屋に入ったのだが、
どうにか起きようとしたのだろう。
蹲って、両手両足を使って踏ん張っても、
彼は起き上がることが出来ずにいた。
私が支えても、立ち上がることさえ出来なかった。
「すまねェ………」
『【してほしいことはありますか】』
「水をくれるか?」
私は彼の口に水を入れた器を近づける。
少しずつ、ゆっくりと飲ませた。
しかし、器の縁を喰む彼の唇も弱いもので、
上手く流し込まないと飲めない状態だった。
「クソ……動きやしねェ………」
『………』
「………世話をさせる側ってのは、新鮮な感じがする」
『【ご兄弟が居たからですか】』
「嗚呼。面倒を見るのが俺の役目みたいなもんだったからなァ。
けど、懐かしい気持ちになるもんだな………
お前を見ていると、昔を思い出させる」
『【悲しいですか】』
「、んでそうなるゥ………嬉しいんだよ。安心するっつうか」
『…………【私も懐かしいです】』
「お前も兄弟居たのか」
『………、……』
「?何だァ?首を振って………居ねぇのかァ」
『【憧れていた人が居ました。
その人をお世話をしていた時期があって。
もういなくなってしまいましたが】』
私が紙を見せれば、彼は僅かに目を見開き、
字を追って読み終えた後、ゆっくりと私の方へと顔を向ける。
その口は、何かを言いかけていた。
………しかし、その先の言葉は飲み込まれてしまう。
「…………そいつはァ……最後まで、
お前が描いていたような人間だったのかよ」
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『…………【その人は最後まで私が思った通りの、
穏やかで、日方のような人でした】』
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「…………そうかィ」
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時