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その日、彼は布団から起き上がる事が出来なかった。
朝、様子を見に部屋に入ったのだが、
どうにか起きようとしたのだろう。

蹲って、両手両足を使って踏ん張っても、
彼は起き上がることが出来ずにいた。
私が支えても、立ち上がることさえ出来なかった。










「すまねェ………」

『【してほしいことはありますか】』

「水をくれるか?」









私は彼の口に水を入れた器を近づける。
少しずつ、ゆっくりと飲ませた。

しかし、器の縁を喰む彼の唇も弱いもので、
上手く流し込まないと飲めない状態だった。











「クソ……動きやしねェ………」

『………』

「………世話をさせる側ってのは、新鮮な感じがする」

『【ご兄弟が居たからですか】』


「嗚呼。面倒を見るのが俺の役目みたいなもんだったからなァ。
けど、懐かしい気持ちになるもんだな………
お前を見ていると、昔を思い出させる」


『【悲しいですか】』

「、んでそうなるゥ………嬉しいんだよ。安心するっつうか」




 
 
『…………【私も懐かしいです】』

「お前も兄弟居たのか」

『………、……』

「?何だァ?首を振って………居ねぇのかァ」


『【憧れていた人が居ました。
その人をお世話をしていた時期があって。
もういなくなってしまいましたが】』











私が紙を見せれば、彼は僅かに目を見開き、
字を追って読み終えた後、ゆっくりと私の方へと顔を向ける。

その口は、何かを言いかけていた。
………しかし、その先の言葉は飲み込まれてしまう。










「…………そいつはァ……最後まで、
お前が描いていたような人間だったのかよ」
















































『…………【その人は最後まで私が思った通りの、
穏やかで、日方のような人でした】』






















「…………そうかィ」












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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時

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