肆 ページ28
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『【いい天気ですね】』
「そうだな」
翌日。
実弥さんが“外へ行こう”と誘われた。
賑わっている町中を、私達はゆっくりと歩いていく。
「らっしゃぁい!お!?
そこの傷の兄ちゃん!うちの見てってくれよぉ!」
『(流行りの髪飾りだ……)』
声をかけて来たのは、雑貨屋の主人で、
主人もお洒落な流行りの容姿をしている。
巷では“かちゅーしゃ”という、髪飾りが流行っているとか。
………お金が勿体ないので、私には必要ないが。
そういえば、最近都会だと※モガ達が
かちゅーしゃをしているところを見たことがある。
紐のような布で頭に着けるだけで垢抜けるとは、
流行りとは最新の発明でもあるのかも知れない。
※モガ・・・モダンガールの略。
「………いくらだ」
『(え、)』
「へいまいど!」
すると実弥さんがその噂のかちゅーしゃを買い上げてしまう。
戸惑っていると、私に手渡してきた。
「………たまには、いいだろ。
世話になった礼も兼ねてだァ」
『(い、いの………かな)』
カサリと、紙袋を半ば強引に押し付けるようにしながら、
彼は私に渡してきた。
私は受け取って、中身を出すと、見様見真似で頭に着けてみる。
「、ん」
『(あ、直してくれてる……)』
「………似合ってる」
彼は位置がズレていたらしい私にくれた髪飾りを直しながら、
ふわりと微笑みながらそう言ってくれた。
とても、嬉しい。
照れて俯いてしまいそうになるが、
感謝の意味を込めて、私は笑ってみせた。
すると彼は少し満足気に、
私の手を取ると再びゆったりと歩き始めた。
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映画を見た。
実弥さんは多分、こういうのには興味ないだろうけど、
私に合わせて、女性の間で流行っているものとかを
下調べしてくれていたのかも知れない。
映画は男女の恋愛ものだった。
『【とても面白かったです。感動しました】』
「そうか、良かったなァ」
『【映画なんて初めて見ました】』
「おォ」
『【実弥さんはいかがでしたか。楽しめましたか】』
私が紙に書いてそう言うと、彼はふっと笑うと
「楽しそうにしてるのを見るのは好きだからなァ」
それだけ告げて、後は教えてくれなかった。
余裕のある、ゆったりとした歩幅と口調で言われた事に、
私はますます顔が熱くなってしまった。
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時