陸 ページ26
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朝。
実弥さんが眠る部屋に、いつものように入った時。
眠っていた彼の瞼が、僅かに開かれていた。
『(目が、覚め………、)』
「………?A、かァ……?」
『っ!!』
思わず駆け寄る。
熱を測ったり、体に異常がないか確かめたりして、
そして少し痩せてしまった彼の手を握る。
目を、覚ましてくれた。意識が戻った………!
良かった、本当に良かった………
あのまま死んでしまうのではないかと思った。
ボロボロと涙が溢れて、頬を伝う。
「………心配……かけた、なァ………」
彼の手を握って泣いていると、彼は掠れた弱々しい声で、
それでも手をしっかりと握り返してくれた。
しかし握る手がとても弱い。
それでも彼は私を安心させようとしてくれているように、
私の手を握った状態で、私の手をゆっくりと撫でた。
その手つきが、優しくて。………優しすぎて。
「………ずっと、呼びかけてくれてただろ……?
ありがとう、なァ………随分、世話になっちまった………」
『ッ………、』
「あー………腹、減ったァ」
『!………、』
お腹が空いている、というのは生きている証拠。
目を合わせて話せているのは、彼がまだそこに居るという証。
彼の遠くを見るかのように力なく、しかしいつもの調子の
口調で空腹を訴える姿が、堪らなく愛しく思う。
きっと、私が泣いているから、どうにか涙を止めようとして
彼なりに考えた言葉だろう。
私は涙を拭いて何度も頷いた。
そして忙しなく、パタパタと勝手場へと急いで、
直ぐに食事の用意を始める。
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時