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『………?』








この日、何故か実弥さんは玄関に居なかった。
いつもであれば、私が来る頃には玄関前に居て、
迎えてくれていたのに。

不思議に思いながらも、私は玄関の戸を叩く。
外国では“のっく”という、出入りに戸を叩く
風習があるのだと聞いたことがあってから、
上手く声に出せない私はいつもこの行為をしている。


………しかし、返答が無ければ、玄関が開くこともなかった。

変、だな………
そう思い、私は玄関の扉に手をかけると、普通に開いた。
鍵がかかっていない………中にいらっしゃるのだろうか。


ガラガラと音を出し、私は彼の家に入ると、
辺りをぐるりと回って、彼の姿を探す。
音は几帳面で真面目な人だ。
家の鍵を開けたまま、外に出歩くことなんて無いのに。

どこを探しても見つからない。










おかしい。



──おかしい。









まさか、何かあったのでは………









その時、ガタッと床がきしむ音がした。
そちらの方面に足を運び、音がした所までたどり着いた時。

目にしたのは──














「ッ……ぐ、………ぁ、!……」



『ッ!!』












廊下で胸を抑え、木の柱を支えに
座り込んでいた実弥さんだった。

酷い汗だ。滝のように汗が実弥さんの額から伝って、
ポタポタと床にシミを作っている。
カヒュカヒュと彼の口からは空気が漏れ出ているような、
そんな音がしていて、立ち上がれないのだろうか………
立とうと踏ん張っても、体が持ち上がらず、
ズルズルと体が傾いていく。


その姿を見て思わず駆け寄る。











『─!!──っ!』

「、………ぅ、………?A、……?」

『ゥウッ!!』

「………大丈、夫……だ、……」

『(どうしよう!どうしようっ!!)』










「大、丈……夫、だか、ら………、
そんな、顔、する…………ん……じゃ──」












私は必死に彼の体を支えようとする。
彼は焦点が合わない虚ろな目で、私を見ていた。
それから、あやすように私の頬に手を伸ばそうとして、
その手はすり抜けて、彼は倒れ込んでしまう。

そこから、彼はピクリとも動かなくなってしまった。












眼の前が、真っ白になった。

実弥さんが──実弥、さんが………っ。















もう、嫌だっ。
誰かが眼の前で、死ぬ光景を、またっ。

私、まだ………!まだ貴方と一緒に──
こんな形で、別れたくない!!!

玖→←拾壱



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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時

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