検索窓
今日:5 hit、昨日:33 hit、合計:6,349 hit

拾壱 ページ21












「今日はいつもより早ェな?」

『【そのお荷物は】』


「ちょっとなァ。A、ちっと出かけてくる。
好きに寛いでろォ」












その日、何となくいつもよりも早めに
実弥さんのお宅にお邪魔した時だった。

彼は玄関先で草履を履いているところに遭遇した。
風呂敷が傍らに置いてあるし、
何処かにお出かけになるのだろうか。


しかし寛いでいろと言われても………
お留守を任せてもらうのは嬉しいけれども。

すると、私が考え込んでいる所を見ていた実弥さんが
ふと何かを思ったことがあったのか、
草履を履き終わって立ち上がると、私に声をかけてきた。











「………、やっぱり、お前も少し付き合ってくれねぇか」

『??』










─────────────────────










『(ここは………)』










実弥さんに連れられてやって来たのは、墓地だった。
広すぎる墓地。多くの石碑、お墓が並んでいる。












「鬼殺隊の墓だ。親族が居ねぇ奴らとかは
ここで弔われるんだよ」


『…………【お墓参りですか】』

「まァな。………最近、調子が悪くてこれて居なかったが」











そう言って彼は水桶を持ち、墓地の中を進んでいく。
沢山の、お墓。同志達が眠るお墓。

………彼と知っている仲も居ただろう。
こうして見ると、本当に多くの命が
失われてしまったのだと、改めて実感する。


そして一つの墓の前に辿り着く。
その墓石には──【不死川】の名が刻まれていた。











『(不死川、玄弥………)』











彼は手際よく準備をする。
墓石に水をかけ、雑草を抜き、供え物と花を添えた。
そして線香を上げていく。
私も手伝い、粗方終わってから、手を合わせる実弥さんに続き、
私もその墓石に手を合わせた。

………話されていた、彼の弟なのだろう。
暫くの黙祷の後、実弥さんは口を開く。












「………うちには兄弟が多くてなァ。
お袋と下の奴らを、俺と玄弥で守っていこうって、話していた」


『…………』


「あいつはァ、良く出来た弟だったよ。
優しい奴だから、自分の事は後回しにしちまう。
………俺には我慢出来なかった。
あいつまで居なくなっちまったら、
俺には何にもなくなっちまうからよ……

だから、俺は──」











その声は、語尾に連れて小さく、僅かに震えていた。










「………、」











その先の言葉は、紡がれることはなかった。

拾→←拾弐



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (21 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
27人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 不死川実弥
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。