拾壱 ページ21
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「今日はいつもより早ェな?」
『【そのお荷物は】』
「ちょっとなァ。A、ちっと出かけてくる。
好きに寛いでろォ」
その日、何となくいつもよりも早めに
実弥さんのお宅にお邪魔した時だった。
彼は玄関先で草履を履いているところに遭遇した。
風呂敷が傍らに置いてあるし、
何処かにお出かけになるのだろうか。
しかし寛いでいろと言われても………
お留守を任せてもらうのは嬉しいけれども。
すると、私が考え込んでいる所を見ていた実弥さんが
ふと何かを思ったことがあったのか、
草履を履き終わって立ち上がると、私に声をかけてきた。
「………、やっぱり、お前も少し付き合ってくれねぇか」
『??』
─────────────────────
『(ここは………)』
実弥さんに連れられてやって来たのは、墓地だった。
広すぎる墓地。多くの石碑、お墓が並んでいる。
「鬼殺隊の墓だ。親族が居ねぇ奴らとかは
ここで弔われるんだよ」
『…………【お墓参りですか】』
「まァな。………最近、調子が悪くてこれて居なかったが」
そう言って彼は水桶を持ち、墓地の中を進んでいく。
沢山の、お墓。同志達が眠るお墓。
………彼と知っている仲も居ただろう。
こうして見ると、本当に多くの命が
失われてしまったのだと、改めて実感する。
そして一つの墓の前に辿り着く。
その墓石には──【不死川】の名が刻まれていた。
『(不死川、玄弥………)』
彼は手際よく準備をする。
墓石に水をかけ、雑草を抜き、供え物と花を添えた。
そして線香を上げていく。
私も手伝い、粗方終わってから、手を合わせる実弥さんに続き、
私もその墓石に手を合わせた。
………話されていた、彼の弟なのだろう。
暫くの黙祷の後、実弥さんは口を開く。
「………うちには兄弟が多くてなァ。
お袋と下の奴らを、俺と玄弥で守っていこうって、話していた」
『…………』
「あいつはァ、良く出来た弟だったよ。
優しい奴だから、自分の事は後回しにしちまう。
………俺には我慢出来なかった。
あいつまで居なくなっちまったら、
俺には何にもなくなっちまうからよ……
だから、俺は──」
その声は、語尾に連れて小さく、僅かに震えていた。
「………、」
その先の言葉は、紡がれることはなかった。
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時