弐拾玖 ページ3
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翌日。
「…………本当に来やがったァ」
『【お邪魔します】』
私は昨日言った通り、彼の下をまた訪れた。
彼は何とも言えないような顔をしている。
“厄介な事になった”とでも思っているのだろう。
しかしこれでも私は頑固である。
一度決めたら最後までやるのが私。
それしか取り柄がないから。
「礼はいらねェって言ってんだろ」
『【何か御礼をさせてください】』
「だから、」
『【何か御礼をさせてください】』
「話を──」
『【何か御礼をさせてください】』
「話ィ」
【何か御礼をさせてください】と書かれた紙を
ズイズイ押し込むように彼に手渡すと、
彼もグググッと抵抗するように紙を渡す
私の手を押し退けていたが、やがて諦めたように手を離す。
………あ、右手……指二本ない。
それに手についたマメに、目を引く痛痛しい傷跡の数々。
それはこの人の人生を物語っていた。
「分かったァ………けど本当に此方からは
何も要求するものがねぇんだァ。
やりたきゃ勝手に決めてやってくれェ」
『………』
「…………?何でェ、考えてなかったのか」
い、勢いで言ってしまった。
なにか言わないと、この縁が切れてしまいそうだったから、
何かと理由を見つけようとして、つい………
『………【決まるまで、通っても宜しいでしょうか】』
「そうはならないだろォ」
『【ひとまず、今日はこれだけでも。
そこのお店で買った団子です】』
「………じゃあ貰うわ」
『………!』
「何だその顔………意外だってかァ?
買ってきてくれたんなら、貰わねぇと勿体ねぇだろ。
ほら、今日はさっさと帰れェ。暗くならねぇ内に」
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時