拾弐 ページ20
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彼は私の我儘を聞いてくれた。
私の想いも、私の望みも。
全て、知った上で………側にいることを許してくれたと思う。
『【おはようございます】』
「……はよォ」
決まった時間に、彼は玄関の前で出迎えてくれる。
今日は、いつもと違って、目を見て挨拶してくれた。
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『【本日は煮魚にしました】』
「煮魚……食うのは久々だなァ」
『【美味しいですか】』
「………あァ………美味い」
私が作った料理を、食べてくれた。
口元が綻び、本当に美味しそうに食べてくれる。
いつも一人だった私。
そんな私が、再び誰かの為に料理を振る舞う。
それだけの事だったが………それがどれほど幸福なものか。
思い出させてくれる。
─────────────────────
縫い物をしていると、時々私を見つめてくる。
どうかしたのかと聞いてみる。
いつもは「何でもない」と言うはずだった。
でもその日彼は、その問いに対して口を開いた。
「………お袋を思い出してた。
いつも俺の着物を繕ってくれててなァ」
『……！(実弥さんの、お母さん……確か鬼になって………)』
「まァ、今となっちゃあその繕ってくれていた着物も
着れなくなっちまったから、もう残っちゃいねぇが………」
『……………』
「………喋り過ぎた。忘れろォ」
昔の話を、少し聞くことができた。
こうして、一日の時間が過ぎていくのだが、
昨日までとは違って、少しずつ、少しずつ………
話す内容が変わっていっているというか。
もっと、彼と共にする一日の景色が、
同じものを見ていると思ったら、その一日がとても愛しく思う。
『【それは出来ないですね。私は貴方の事を知りたいから】』
「…………そォかよ」
なんでもいい。
貴方を知って、貴方と同じ時間を過ごす。
共に生きているこの瞬間が、
何よりもかけがえのないものだと、私は思う。
それが、人の生き方なのだと。
たった一日の些細な出来事でも、
一つ一つが奇跡の連続なのかも知れない。
だって貴方と出会えなかったら、
こんな幸福には出会えなかっただろうから。
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2023年7月1日 1時
