拾参 ページ19
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『(き、気まずい………)』
翌朝。
昨日、背後から抱き着いてしまった手前、
私は非常に気まずかったし恥ずかしかった。
とか言いつつ、結局今日も実弥さんの
お宅にお邪魔しているのだが………
『【おはようございます】』
「おォ、入れェ」
家に、上げてもらった………
本当………勢いって、怖い。
でも昨日はあの後実弥さんも何事もなかったかのように
いつもの少しだけ素っ気ないような口調で
送ってもらっていたし、なんか………
私だけ意識しているみないな。
い、いや………その、はっきりとは“好きだ”とは言っていない。
一緒に居たいって思ったから、私を突き放してほしくなくて、
結局私の我儘で言ってしまったし………
………もしかしたら、実弥さんにとっては
迷惑な話だったかも知れない。
で、も………あの時、優しく抱擁してくれたことは覚えてる。
『………』
「………昨日の、話なんだがよ」
『!』
「…………あー、……クソ………」
彼もまた、少し気まずそうにしている。
そ、そうだよね。あんないきなり後ろから抱き着かれたんだし、
驚かせてしまった。
ちょっと、申し訳なかった。
でも、言葉を伝えるのが、今の私には難しかったから、
ああいう形となってしまっただけで………
実弥さんは後頭部を掻きながら
言葉を選ぶようにソワソワとしている。
「………昨日、文落としただろォ」
『………(え、文って……ああっ!
もしかして、だだだ、抱きついた時落とした!?)』
「中身、読んでよ………」
『(しかも読まれてる!!)』
なんてことだ。うわ、本当に恥ずかしい!
やめて!凄く恥ずかしい!!
というか、実弥さんって実は嘘つけない正直な人!?
「………、ハッ、なんつー顔だよ」
『(ぇ………)』
その時、ふわりと頭を撫でられた。
薬指と中指が無い、戦い抜いた逞しい手が、
優しく私の頭を撫でる。
「………正直に言えば……お前とどうこうなるつもりは今もねェ。
お前と向き合ったとして、俺に残された時間は、
本当にもう残されてないんだ。
必ず、お前が泣く結果になる………」
………それはそう思う。
きっと“その時”が来た時、私は泣いてしまうだろう。
それは、彼も本意ではないと、そう言っている気がした。
『イッショ、ア、イイ………デフ』
それでも、私は一緒に居たい。
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時