拾肆 ページ18
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「お、前………」
『………、』
翌日。私は実弥さんに会うために、彼の下に訪れた。
二日程ここに来ていなかったが、長く、長く、
考えて、考えた先で答えを見つけられたような
気がしたから、それを伝える為に、彼に会いに行った。
彼はもうここに私が来ることがないと思ったのか、
非常に驚いていた様子だった。
玄関を開けたまま、彼の体が固まる。
『【お話があります】』
「………俺にはねェ」
『(言うと思った……)【いいえ、聞いてもらいます】』
「お前なァ」
『【貴方も私の事を考えてくれて、
考えた結果、話してくれたのでしょう。
それで終わりにしたくありません。
私の話も聞いてください】』
「……………」
彼はしばらく長考していた。
そしてやっと動いたと思ったら、私に背を向けた。
玄関は………閉ざされていない。
………入ってもいいと解釈した私は、そのまま彼の背を追った。
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中庭にて。
彼は中庭まで足を運ぶと、背を向けたまま足を止めた。
「何で来た………」
『…………』
「俺は言った筈だ。俺には時間が残されてねェんだよ。
そんな男とつるんでたって、なんにもならねぇだろうが。
だから、全部話したってのに──」
『………、』
「……………」
彼は、私に背を向けたままだった。
その背中は、酷く寂しく見えた。苦しそうにも見えた。
………私は、言葉を発するための声がない。
話せても、蛙が潰されたような酷い声だ。
どれほど言葉をかけたくても、
こんな声では届かないかも知れない。
遠かった。遠かったんです、その背中が。
わたしは──!
「!」
『ッ、』
彼の背中に飛びついた。
一生懸命に考えて、綴った文があったが、
なんだかどうでも良くなった。
その背中を、私は追いたいだけなんだ。
繋ぎ止めたいだけなんだ。
これは私の我儘。
「ッ、………お、い………っ」
『ィ、ショイ、………イダイ、ェフ………ッ』
「!!おい、離──」
『オ、ェガイ、シァ、フ………!』
背中に飛びついて、酷い声で、彼に言葉を送る。
違うんです、実弥さん。私は………ただ、!
ただ“今”を!!一緒に居たい!!
その時、暫くしたあとで。
離そうとしていた彼の手が、弱まった。
代わりに、優しく………優しく抱きしめられた。
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時