拾漆 ページ15
・
「A」
翌日。
昨日のあの後は何も聞くわけでもなく、
聞かれるわけでもなくで、結局何事もなかった。
それから昨日は少し顔を合わせるのが、
何となく居づらくて、実弥さんの家に泊まることなく
宿に帰っていた。
そして今日。
何処か神妙な顔をして、私に声をかけてきた実弥さん。
縫い物をしていた手を止めて、私は彼の方へと振り向く。
「………話がある」
─────────────────────
「………俺の事を、知りたいと言っていたな」
『………、』
「いつか話さねぇと、って………思っていた」
改めて、彼と向き合って話をするとなると、
何処か緊張感が出た。
彼は言葉を慎重に選ぶように、語り始める。
自分が“鬼殺隊”という非公認の組織に居て、
鬼を滅する為の剣士であった事。
家族を殺され、唯一生き残ってくれた弟を守る為、
憎き鬼を全て滅する為に、鬼殺隊に入った事。
最終決戦で、弟を犠牲に強敵を倒した事。
死闘の末、鬼の祖を倒すことが出来た事………
全てを話してくれた。
『………』
「………鬼を殺す為には、犠牲は付き物だった。
捨てるものを捨て、選んだ先で得た力で………
鬼の祖を殺す事が出来た。
その代償として二十五を迎えた際、その命が果てる」
『!(それって………)』
「最近、体が動かなくなってきている。
今年二十五を迎えてから、少しずつ。
昨日お前が見たのがそれだァ………
俺にはもう、先が残されてねェ」
『(………あぁ……)』
この先、聞いてはいけないと………
私の中の警告が鳴り響いている。
そんな私の気持ちもつゆ知らず、彼は次のように告げた。
「ここに通うのは止めろ。
後先短ェような男に、付き合う必要はねェ。
………話すことは話した。俺の事を知りたかったんだろ。
ならもうお前がここに居る必要はねェ筈だ」
・
「俺から離れれば──」
「お前は【泣かずに済む】だろ──?」
・
・
ああ………、
ッ…………あ、ぁっ。
何て…………なん、て。
酷く、優しい、……言葉なのだろう………っ。
・
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時