拾玖 ページ13
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結局、翌日まで実弥さんの家で
風邪が治るまでお世話になってしまった。
何がお礼がしたい、だ。
結局、世話になりっぱなしじゃないか。
何と恥ずかしい……不甲斐なくて、彼に申し訳なかった。
そんな事を思いながら、治った体を動かして、
昨日までお世話になった布団を朝から干す。
もうこれ以上、お世話になるわけにはいかなかった。
なんなら、意識が朦朧としていたこともあって、
あまり記憶に無いが、とても子供っぽい事も
してしまったかのようにも思うし。
………ジッとしていると余計なことも考えてしまいそうだった。
「おいィ………」
『！ア、ウッ！？』
「病み上がりだろォ。大人しろってあれ程言ったよなァ？」
『(び、………！)』
──びっくりしたぁ！？
心臓が飛び出るかと思ったぁ！？
不意に背後から声をかけられて、
体が自分で思った以上に跳ね上がる。
だ、だってこの人、気配の消し方が上手すぎるんだもの。
しかも怖いっ。怒っている。そして呼吸音凄い。
ぷるぷるしながら、私は紙に筆を走らせる。
『【もう熱は下がりましたし、体も楽になりました】』
「昨日まで魘されていた奴が何言ってやがる。
病状を長引かせられても、こっちが困るんだァ……
言っている意味、分かってんのかァ？」
『(………ぐうの音も出ない)』
「いいからとっとと………」
すると、突然突風が吹き荒れた。
布団と共に干していた毛布の端がバサバサと
私の顔に直撃する。
どうにか暴れ馬となった毛布を大人しくさせようとするも、
毛布は容赦なく私に襲い掛かった。
遠くで、私が贈った風鈴の音と、セミの鳴き声が聞こえる。
『ゥプッ………ウ、ウゥァッ、！』
「…………く、くくく」
『！(わ、笑った………)』
「布団の方から療養しろとやって来てるじゃねぇかァ。
く………はは、はっ！
そのまま大人しく布団に捕まっとけェ」
嗚呼。
傷だらけの顔。
どれ程、彼に辛い出来事があったのか知れない。
でも、くしゃりと破顔するその表情が、
本来の彼を表していた。
この人は笑う時、こんな顔をするんだ………
「ほら、もう一日くらい休んでいけ」
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2023年7月1日 1時
