佰弐拾漆日 ページ34
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『！冨岡殿』
産屋敷の屋敷から帰路を歩こうとした時、
出口に冨岡殿の姿があった。
私は交流の為に彼に呼びかける。
彼は私の声に気づいて、こちらを振り向く。
冨岡「………あんたは、風柱の………」
『改めて挨拶をしようと思ってね。見かけたものだから』
冨岡「…………」
『小鳥遊 Aだ。君は水柱だったね。
もしかして鱗滝左近次殿の門下の者かな』
冨岡「嗚呼」
『やはりそうか。立ち振る舞いが何処となく鱗滝殿に似ていて、
もしやと思ったが。
以前、お世話になったことがあってね。
君の立ち振る舞いは彼の教えかな？』
冨岡「…………」
………感情が、読みづらいな。
ちょっとやそっとじゃ変化を見ることが出来なさそうだ。
しかし不快感は覚えていないようで安心した。
ジッと静かな水面の瞳が私を見つめる。
『君とは然程歳は変わらなさそうだし、
これから仲間として仲良くしてくれると嬉しいな。
同じ柱同士、隊を率いて行こう』
冨岡「…………俺は、」
あ………今、感情が揺れた。
しかしその感情もまた、自己嫌悪のものだった。
冨岡「………俺は、あんたとは違う」
『！』
冨岡「失礼する」
冨岡殿は短く答えて、そのまま立ち去ってしまった。
………そうか。彼は、そういう子なのだろう。
優しすぎるがあまりに、そうすることでしか、
前に進むことを許されていない。
その方法しか、前を進むことが出来なかったのかも知れない。
『(今ので、大体わかったな………)』
君は、君自身を誰よりも憎しみ、恨んでいて。
自己肯定が凄まじく低い。
感情を殺さなければ前に進むことが出来なかったのだろう。
………分かった所で、私には何もしてやれない。
私にできることと言うなら、理解してやれることだけだ。
救うことが出来るのは、いつだって自分なのだ。
それに気づける日が来ない限り………
彼の心は救われない。
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2023年6月22日 15時
