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佰参拾肆日 ページ27








私の家は、それなりに裕福な家だった。
兄は二人いた。長男と次男、そして私だった。
兄二人は優しい人だった。
………私は、父から疎まれていた。

女であったが故に。体が弱く、子を産めぬ体であったが故に。







そんな私を、母や兄達は庇ってくれた。
でも、兄達には立場がある。母は父に逆らうことが出来ない。
庇うのも限界がある。


私は、兄達や両親の邪魔にならないよう、
良き子供であろうとした。
しかし私は、上手く良き子供に成る事が出来なかった。
父は家の大黒柱であり、全て。
言うことを聞かなければならない。

父の言う事は絶対。父の後を継ぐ兄達の言う事も絶対。
聞き分けの良い子であろうとしたが、上手くいかなかった。







父は次第に私を殴るようになっていた。
私は抵抗しなかった。抵抗する必要が無かった為に。
私を殴ることで、父の心が鎮まるのであればと、思っていた。


父の怒りが伝わってきた。
兄達の心配の心情が伝わってきた。
母の悲しみが、伝わってきた。

沢山の感情が入り混じり、相手の感情が自身に伝わって、
相手の”感情の痛み“の方が外傷よりも痛みを感じた。
そう。この頃から外傷の“痛み”を、感じづらくなっていた。








そして時、鬼が家を襲った。


生き残ったのは、私だけとなった。







─────────────────────







『………鬼が、家族を喰っている姿を、私は見ていたよ』

粂野「………その鬼から、何か感じましたか」


『そうだねぇ……鬼はそれは美味しそうに、
無我夢中で私の家族を食っていた。
………でも同時に、悲しみを秘めていたよ』


粂野「悲、しみを……?」


『そう。私は思考まで読むことは出来ないから、
その鬼が何を考えていたかは分からないよ。
実際に自我なんて無かった。
あれは、心の奥底にあった感情だったとは思うけどね。

だから声をかけたんだ。
あまりにも悲しい気持ちだったから』


粂野「!?」


『おかしいでしょう?私は死にかけていた。
でも、鬼が心配で声をかけたんだから』










粂野殿は信じられないと言わんばかりに、
口を手で押さえていた。
………困惑、疑い、疑問、………嫌悪と憎悪、ね。

嗚呼、困らせてしまったな………

佰参拾参日→←佰参拾伍日



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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年6月22日 15時

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