八度 合縁奇縁 ページ10
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『(苦しく、ない)』
数日が経った。
しかし、私は人を喰らおうという本能が襲いかかることを
想定していたのだが、その衝動がいつまで経っても出ない。
人を、喰らわずに済んでいる。
素直に嬉しく思った。
まだ鬼としての覚醒しきる前に、あるいは人を喰らう前に
この娘が己の首を跳ねたからだろうか。
いずれにせよ、とても安心できた。
いや、完璧では無いのだろう。
眼の前で人が血を流すところを見ては居ないから
喰らおうという気になっていないからかもしれない。
ただ、少しでも人を喰らおうとしないのであれば、
無駄だと分かっていても、人のように振る舞える。
それがただただ嬉しく思う。
『……!ハッ………娘に寄生して置いて、
何を思っているんだカ……』
そう。寄生しなければならないこの血鬼術。
つくづく気持ちが悪い。
本当に、自分が気持ち悪くて仕方がない。
この娘にも申し訳ないな………
その時、風を切るような、空気の乱れを感じ取った。
………なんて体だ。五感が研ぎ澄まされている。
この娘は鬼狩りの中でも腕の立つ人間だったらしい。
いやそれよりも、空気の乱れ──そして異様な気配。
これは、鬼だ。
どこだ?鬼が人を喰う前に、せめて朝になるまでは
足止めをしなければ。
私は感じ取った気配をたどり、その方角へと向った。
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足が速い。
これまで多くの鬼を乗っ取って来たが、
これ程まで洗礼された動きが出来たのは初めてだ。
体は強くないはずだ。
鬼であるから当たり前ではあるが、
それにしてもこの肺活量。呼吸が乱れない。
相当な手練れだったのだろうか。
この体の持ち主の記憶は、断片的にしか分からないが、
体は覚えているらしい。
そうこうしている間に、開けた場所に出る。
そこに居たのは──
鬼《グァァアア!!!》
??「くっ、う!?」
鬼だ。
鬼が人を襲っている。
そして、鬼と対峙しているのは、刀を持った少年。
鬼狩りだ。鬼狩りが鬼に苦戦している。
それに気配。この少年とは別の気配がする。
あの少年からか?
………いや、それより。
まずは少年に手を貸すほかない。
そう思い至った私は、地を一気に飛び上がる。
そして、少年に襲いかかった鬼を
上空から重力に任せ、攻撃を仕掛けた。
円環の鬼side〜end〜
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年4月18日 21時