三十六度 ページ38
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火山の麓の樹海。
深い森に入れば、周囲は不気味なほど静かだった。
………生物の気配も感じない、気味の悪い場所だ。
辺りを警戒しつつ、森の奥へと入る。
音柱「聞こえてきたぜ………居るなぁ？」
『しかし巧妙に姿を隠していル。
樹海を活かした身の隠し方だナ』
音柱「そーだな。が、相手が悪かったな。
俺は元忍びの出の神だ。こういう小細工──はっ！」
ヒュッ
《ギャッ！？》
その時、音柱はとある一点に向けて何かを投げつけた。
速すぎて目で追えなかったが、その方角から悲鳴が上がる。
そしてドサリとそれは頭上から落ちてきた。
全身がまるで影のような黒い鬼だった。
………死狼でも反応が遅かった。音さえ拾うことが出来れば、
この男を前に、上弦で無い限り隠密は通用しないだろう。
鬼の首には苦無が突き刺さっており、鬼は首元を抑えている。
音柱「テメェだな？この辺りで神隠しとか言われてる
行方不明者多発の犯人は」
鬼《ヘッ、僕は助けてやっただけさ………
この樹海には死にたがる人間が入り込んでくるんだよ。
相手が死にてぇってんで、僕はそれを手助けしたに過ぎない》
音柱「それにしちゃあ、周囲の木々には
逃げようとして人間が引っ掻いたような爪痕が
あちこち見られたんだがなぁ」
鬼《………人間は愚かだよなぁ？
勝手に死にてぇって思って、この樹海に入ってきたってのに
僕を目の前にして「助けてください」だとよぉ。
面白いよなぁ？見てて飽きない》
黒い鬼はジュルリと舌舐めずりをし、
首元に刺さっていた苦無を引き抜く。
………！死狼が嫌がっている。
あの苦無、毒か。藤の花の毒だろうか。
黒い鬼は最初こそ苦無を引き抜いたあとで
苦しげに咳き込んでいたが、やがて首元の傷が塞がる。
音柱「………へぇ、藤の花の毒を仕込んでたんだが。
成程、この樹海という環境が、一応毒の耐性を作ったか」
鬼《ヒヒヒッ》
『………気に食わン』
命を冒涜するような事を話す奴は、気に食わない。
本能のままに喰らっていた時期の私も大概だが、
生命の尊さを潰すように語る、人の言葉を発する鬼。
そういう輩は、特に──
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2023年4月18日 21時
