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三十三度 ページ35










音柱「つか、流石に“小鳥遊”とは
軽々しく呼ぶわけにはいかないわな?」


蟲柱「確かにそうですね。姿形は小鳥遊さんそのもの。
ですが今の人格は鬼である“貴方”………
顔は面で隠しますが、小鳥遊さんの名前を呼んでは
一般隊士や隠の皆さんも混乱しますね」


『名も無いとなればそれはそれで不便だろウ。
ならば好きに名付けるといイ。過去の名はとうの昔に忘れタ。
どのような名前にしてくれても構わなイ』


蟲柱「そうですねぇ………
あ、それでは“トビウオ”はどうでしょう?」







『………とびうお』










それは確か、空を駆ける魚の名称ではなかっただろうか。
蟲柱の提案に、音柱はギョッとしたような、
何とも言えない顔をしていた。

トビウオ………












『分かった、トビウオだナ』


音柱「ちょ、待て待て待てぇ!
おかしいだろうが、どんな感性してんだお前ぇ!?
後、お前もお前で承諾するんじゃねぇ」


『………魚以下の存在の私に魚の名称を付けタ。
これは有難い事ではないのカ』


音柱「自分を卑下にし過ぎるだろ、
初めて見たわ限界までの自虐的な事を言う奴」


蟲柱「失礼ですね。鬼となってから小鳥遊さんの漆黒の髪が、
毛先だけ鳶色になってますので、
トビウオのように陽の下で、速く、遠くまで駆けられる
その日が来ますようにと込めた名前にしましたのに」


音柱「しかもちゃんとした理由あんのかよ………
名付けをするんだったら、派手を司る俺に任せろ」











その時、音柱がじっと私を見る。
その間にこの体の容姿を私も見てみた。
髪が長い。漆黒の髪は、反射すると様々な色をしていた。
まるで鴉の羽根のように、美しいものだった。
毛先は蟲柱の言うように鳶色をしている。

空をかける鳶の羽をも思わせた。
それから音柱の目を見てみた。音柱の瞳に反射して見えた
私の瞳は、瞳孔が縦になり、柳色をしている。













音柱「………鳶寧(とびね)。鳶寧はどうよ?」

『とびね?』

音柱「鳶の部分使ってやったんだ。文句ねぇよな?胡蝶」


蟲柱「………まあ、私の名付けも汲んでくれたのであれば
良しとしましょうか。どうですか?」


『………分かった。では今後は“鳶寧”と名乗るとしよウ』














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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年4月18日 21時

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