二十七度 ページ29
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目の前が、暗くなって来た。
………駄目だ、意識を飛ばしたら、斬られるかもしれない。
誠意を見せなければ。無惨を倒すために。
意識を、意識を保て。
タガが外れて、理性を失うかもしれない。
飢餓状態となってしまうかもしれない。
人を喰らおうと襲ってしまうかもしれない。
私は食わない。食いたくない。
喰らいたくない………奴のようになりたくない。
ボタボタボタ………
奥歯を噛み締め、苦しみを紛らわせようとする。
その度に、血を口から垂れ流した。
………惨めだ。私という存在は、何と惨めな生き物だろうか。
人前でこのような醜態を見せるなんて。
この、穢れた鬼の血を晒すなんて。
申し訳がない………申し訳がない………
嗚呼、部屋が汚れる。私の血で汚してしまう。
肩でどうにか口を拭おうとするが、
体が思うように動かなかった。
周りを見た。
?おかしい。花は食った筈だ。
それから問うた筈だ。“満足であるか”と。
しかし彼らに反応がない。
………そうか、まだ足りないのか。
そうだ、そうに違いない。食わねば。
証明しなければ、誠意を見せなければ。
私は再び前屈みになり、花を喰もうとする。
胡蝶「もう十分でしょう。止めてください。
これ以上藤の花を口にすれば、
鬼でも流石に治癒が遅くなります」
すると胡蝶が私の行動を静止させ、
周りに居た幹部達に向かってそう告げた。
それから私の下に駆け寄ると、手拭いで私の口を拭おうとする。
私はそんな彼女に諭した。
『………駄目ダ。血で、汚れル』
胡蝶「!貴方………」
『審議の最中ダ。庇っては、ならなイ………駄目ダ』
胡蝶「…………」
輝哉「………どうなったのかな」
かな「鬼の方は跪き、口で藤の花を喰み、飲み込みました。
口から血が出ています」
輝哉「………誠意は、証明されたね。
それでもまだ足りないかな?
しのぶの言う通り、これ以上はいけないな」
そこでようやく、産屋敷の当主が止めに入った。
理解していた上で、止めなかったな。
輝哉「なら、これで決まりだね。
彼女に手は出さないこと。
柱が常に彼女を監視下で見ておくこと。
あまり虐めないこと。
………いいね?」
「「「御意」」」
『(………終わっ、た、……)』
その言葉を聞いたのを最後に、私は意識を飛ばした。
円環の鬼side〜end〜
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年4月18日 21時