十二度 ページ14
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【産屋敷】
その単語には聞き覚えがあった。
成程。この娘の記憶だな。
どうやら【単語】を集めれば
この娘の記憶を辿ることが出来るらしい。
先程の鬼連れの少年が【産屋敷】という
単語を聞かせてくれたおかげで、産屋敷家に通ずる道を
思い出すことができた。
鬼狩りの最高権力者に会わなければならない。
無惨を葬る悲願を果たすために。
その時、とある記憶が私の脳裏を過ぎる。
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『お館様』
”お館様“と呼ぶ自身の声。この娘の声だ。
呼ばれたであろう“お館様”というのは、
恐らく目の前に居る、藤の着物を着た男が産屋敷家の者。
不思議な感覚だ。酷く穏やかな微笑みをたたえ、
こちらを慈悲の眼差しで見つめてくる。
「よく来てくれたね。久しぶりに顔が見れて良かったよ」
『私もです。お変わりありませんか?』
「ありがとう。問題ないよ。
それより、急に呼び出してすまなかったね。
君に少し頼みたいことがあるんだ。聞いてくれるかい?」
『はは、私のような者でも力となれるのであれば……』
「嗚呼。君だからお願いしたい。
今回、とある一件を──にお願いしたのだけれど、
少し危なっかしくてね……
心配なんだ。様子を見てきてくれるかな」
『!あの子が?………やれやれ、あの子が
また無理をしてなければ良いのですが……
拝命致しました』
カラカラカラ………
記憶の最後に聞いたのは、
何か、軽いものが鳴る音だった。
─────────────────────
『(産屋敷………それが、鬼狩りの権力者の名前)』
あの少年は産屋敷家の屋敷を知らないと言った。
位の低い立場であるために、
その場所への道は知らなかったのかも知れない。
この娘は産屋敷家の人間に会えるほどの
権力と実力を持っていたに違いない。
受け入れられるとは到底思えないが、行く価値は十分にある。
行かなければ。
無惨討伐に向けて。
この娘の首が飛んでも、私はまた蘇る。
そして娘の記憶を見た私も、屋敷に続く道は覚えた。
例えこの体が朽ちても、私は死ねない。
問題はない。
………が、首が飛んだら、
流石に娘には本当に申し訳がないな。
出来ることだけはするが………首だけは守らねば。
円環の鬼side〜end〜
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年4月18日 21時