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十一度 ページ13









炭治「──!」







その鬼の、感情の匂いが、ここでやっと嗅ぐことができた。
初めて、この鬼は感情を表した。

その匂いを嗅いだ時、言い表すことが出来ない、
とても、とても………深い感情だった。
強いて言うなら【安堵】──


とても安心したような、喜んでいるような。
嬉しそうに、慈しむような………深い深い感情。









『そう、か………人に、戻そうと………
そしてその様子からして、人を喰って居ないんだナ』


炭治「………はい。禰豆子は、人を食っていません。
俺と同じく、鬼と戦って居ます」


『………、良かっタ』

炭治「“良かった”……?」


『嗚呼。良かっタ。まだ、その妹ハ………
人を喰らわずに、人として、まだ、戻れル──』











そして、悲しい感情の匂いがした。
後悔、悲しみ、憎悪、怒り。
こんなに交わった悲しい感情は初めてだった。
でもそれを表に出そうとしていない。

嗚呼、なんて………なん、て。










『…………何故、お前が泣いていル?』

炭治「………ぇ、」

禰豆《ムゥ、ウ……?》


炭治「………ぁれ。本当だ………
す、みませ、………大丈夫、です」


『…………』










禰豆子が心配して裾を引っ張っている。
恥ずかしいな………女性を前に泣くなんて………
俺はぐしぐしと涙を拭う。
言われるまで気づかなかった。

とても優しくて、温かい匂い。
彼女の感情の匂いは家族が生きていた頃を彷彿とさせた。
こんなにも、慈愛に溢れた人なのに。

なのに彼女は鬼に………
本当だったら………とても温かな人間だっただろう。
なのに──!










炭治「すみません………急に………
貴方から、あまりにも………優しい匂いがしたから……」


『…………』


炭治「もう、大丈夫ですから………
他に聞きたいことはなんですか?」


『お前達を纏めている権力者に会いたイ。
鬼狩りの本拠地はどこダ』


炭治「!すみません。俺は一隊士に過ぎないので、
お館様がいらっしゃる
【産屋敷家】の場所は知らないんです……」


『!!そう、カ。なら、いい。
その“単語”が聞けただけで十分ダ』


炭治「え?あの、」


『私に会った事は黙ってくレ。
お前達を巻き込むつもりは無イ』










そう言って、その鬼は俺の前から立ち去ってしまった。
………これは鬼を、逃してしまった事になるのだろうか。
多分、お館様には鴉を通じて知られてしまうだろうな……
無事を……あの優しい鬼の無事を祈るしか………

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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年4月18日 21時

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