恋のサンプル【A3!】

Chikage Utsuki.H ページ41

『キミから俺へ』

▽



「せんせー。ずっと前から好きでした」

「……。無理だ」



それまで、
どう頷かせてやろうかとそればっかり考えていた。




賢くて、わかりやすくて、生徒から好かれて。

大人なのにどこか大人げのないせんせーは私のことを落とすのに十分だった。






だから、せんせーの担当科目のテストでいい点を取ればいいとか、授業中はせんせーのことを凝視していればいいとか、いい大学に受かればいいとか。

どうすればせんせーが私を見てくれるのだろうと。

今まで凄まじく頑張ったのに報われないまま今日の日を迎えた。




胸には学年色のコサージュがついて、周りにはすすり泣く友達やクラスメート。

最後だからって泣き顔で写真をたくさん頼まれた。



だから私もそれをあつらえようか。



「……せんせー。
最後の記念に私とツーショ撮ってください」

「……」


返事はないのに、顔はどこか優しげで。
インカメになった画面を力いっぱい遠ざけてみても2人の距離は縮まらないままだ。


「お前……もっとくっつかないとダメだろ」

「だって上手くいかな……」


と途端、せんせーにスマホを取り上げられた。



「自撮りはこうやってやるんだ」

私が呆気に取られている隙に、せんせーは私と顔の距離を近づけてシャッターをこれでもかと切った。



「ふふっ、何回撮るんですか」

「“最後の記念”だから？」


彼は涼しく笑って私を見た。
彼の鋭い瞳から逸らすことはできなかった。

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