Tasuku Takato.H ページ32
『吐き出せ』
▽
ある日、特異体質になった。
「嘔吐くな。おっさんかよ」
「もうオッサンでいいですけど」
……なんて可愛くないんだろう。
彼が? いや、私が。
何かを喉元に詰まらせたように苦しくて。身体はその異物を取り除こうと必死だし、それに伴う咳は激しくなるばかりで。
本当に、吐き出してしまう方がいっそのこと話が早いと思った。
「……吐くならここに吐け」
「ん……」
口下手なクセに優しくて、優しいクセにぶっきらぼう。そんな彼に、どうも私は忘れてしまったかのように素直になれない。
彼の差し出してくれたビニール袋を受け取って、ついに吐き出した。
吐き出した先には、テレビに映すとすればキラキラとしたモザイクが掛かってしまうような嫌な物体は存在しなかった。
その代わりに。
「ねぇ高遠くん。見て」
「は?
わざわざ嘔吐物なんて見せなくていい」
「違うし、いいから。見せられないようなモノならわざわざ見せようとなんてしません」
彼は渋りながらも、私の差し出すように見せたビニールの中身を怖々と見つめた。
「……なんだこれ」
「さぁ?わかんないけど」
2人してリアリストだったから目の前の光景が信じられないものだったのは察して欲しい。
目測だが、おそらく手のひらサイズ。
幾度となく目にしたことのある平仮名が暗号を示すかのように数個転がっていた。
「……信じられないな」
「頬でもつねってあげようか」
彼の是非を聞かないで、思い切り彼の頬をつねった。
「……痛いな」
本当に痛がっているのだろうかわからない反応であったが、私もつねっていて実感しか湧かなかったので信じる他がないことに辿り着く。
「これネタにしたらかなり良質の脚本になりそうじゃない?」
「俺でもわかるが今はそれどころじゃないだろ」
珍しく正論を吐いた彼を流しながら、ビニールの中に詰まった平仮名たちを見つめ直した。
“ だ ”
“ い ”
“ す ”
“ き ”
見せてしまったけど、気づかれなかったかな。
カラフルなそれらに魅せられたが最期、私は目が離せなくなっていた。
これはきっと私の本心だ。
素直に言えないから、文字通り、言葉として
「……これ、燃やせるゴミになるのかな」
「たぶん、嘔吐物の類いならな」
「嘔吐物じゃないって言ってるのに」
そうやって私はまた本心を隠してしまう。
躊躇わずに
想いを吐き出せる日を私は待つだけだというのに。
さて、そんな日は来るのだろうか。
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はゆー(プロフ) - あゆみさん» コメントありがとうございます!そう言って頂けて光栄です!(*´ `*)これからも、ろい様と力を合わせて更新をがんばっていきたく思っておりますので心待ちにして頂けますと幸いです。あゆみ様をキュン死にさせてみせますのでよろしくお願いします、、!笑 (2019年4月28日 19時) (レス) id: 6a466921ec (このIDを非表示/違反報告)
あゆみ(プロフ) - 毎回めちゃめちゃいいお話ありがとうございます…!!1話読み終わる度に投票してもうしてあるので失敗するという流れを繰り返してます…次の更新も待ってます!! (2019年4月28日 1時) (レス) id: bf0195af74 (このIDを非表示/違反報告)
ろい(プロフ) - 灯無さん» く、口から血が……!?ですが、キュンキュンは抑えません!(笑)これからもドキドキ、キュンキュン全力で恋のサンプルをお届けします! (2019年4月1日 21時) (レス) id: 221a5d6f5e (このIDを非表示/違反報告)
灯無 - ろいさん» いえいえ!良かったです(^ ^) これ以上キュンキュンすると口から血が出そうです。楽しみに待ってます! (2019年3月31日 22時) (レス) id: 126e456bd1 (このIDを非表示/違反報告)
ろい(プロフ) - 灯無さん» ご指摘ありがとうございます!めちゃくちゃ無意識でした!これからははゆーちゃん様と合わせます!更新楽しみにしておいてください、キュンキュンさせてみせます(真顔) (2019年3月31日 16時) (レス) id: 221a5d6f5e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はゆろい x他1人 | 作成日時:2019年3月31日 2時