恋のサンプル【A3!】

Banri Settsu.H ページ12

『春限定』

▽



桜のフラペチーノを片手にパシャパシャとスマホを鳴らしていた。


「あれ。万里くん、またブラックだけ？」

「ブラックの気分なんだよ」

「それいっつも言ってる」


大きめのスマートフォンを片手に万里くんは真っ黒なコーヒーを優雅に飲んでいた。


「Aだって期間限定に弱すぎんだろ」

「桜はずっと気になってたから……」

「はは、お前もそればっか」


満足げに桜メニューを飲む私に万里くんが茶化すように笑った。

「万里くんも飲んでみる？」

「いや、要らねぇ。今、甘いクチじゃねぇし」

「そか、残念」


“Thank you!”という一言に、可愛らしいニコちゃんマークがひとつ。容器に書いてあった。

あまくはないが、さっぱりした舌触り。
正しく、春の訪れに相応しいフレーバーだ。


「最近どう？」

「んぁ？いや、まぁまぁだな」


美大と普通の大学で違うから今日会うのは実は久々だったりする。


「まぁまぁか〜。そりゃ良かった」

「……なぁ。Aの、やっぱひとくち」


私の有無も聞かないで桜フラペチーノを奪い取って音を立てて飲んだ。


「……甘ぇ」

かと思いきや。


「なぁ。俺と付き合ってくんねぇ？」

「え？何とって……？」


「俺と、付き合え。
これ、悪い取引じゃねぇと思うんだけど」


やけにしっとりした空気。
肘をついて上目で私を見つめてきた。



「取引って……？」

「こうやって、季節限定に毎回ついてきてやる」


「え、それでいいの……？取引」

「なんか他にいい交換条件でもあんの？」


上目のままニヤリと笑んで、見つめてくる。



「お互いの暇が合ったとき必ず会うとか……？」

「言ったな？」

「うん？」


余裕の裏腹には嬉しさも見えて。



「っし。んじゃ、Aは今から俺の彼女な」

「恋仲になるのってこんなにナチュラルなもの？」


「さぁな。A相手だからっつうのもあるかも」



この状況を楽しんでいるかのように、冷めたコーヒーを飲み干して。


「記念にデートでも行くか」

「え、待って。桜……」


「飲み干せ。
飲み足りなかったらまた一緒に来りゃいい」



強く手を引いて、カフェを抜けた。

麗らかな気候と暖かさが私たちを照らした。



まさしくこれは春限定だ。

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