140話 ドレス ページ42
昔、そう私がまだ蜘蛛に入団する前、随分裕福な暮らしをしていた時のことだった。
私の部屋はきらきらしたものに満たされていた。
私の大好きなもの、大切なもの、高価なもの、希少なもの、輝くもの…そんなものがいっぱいだった。
勿論クローゼットの中まで。
もうずいぶん自分に費やす時間が減って、感覚がなくなって忘れていたが、昔はとても自分を着飾ることが好きだったし、着飾る時間、着飾った自分が好きだった気がする。
そんなある日だった、いつもは華やかで様々な色使いがされたドレスや服を選ぶのだがその時はなぜかいつもと全く異なるドレスに心を奪われたのだ。
理由は今でもわからないが、気づいたらクローゼットの隅から引っ張り出していた。
そのドレスはよく確認せずにまとめて衣類を購入した時に混ざってしまっていたものだったので当然興味はなく、一度も着ないまま放置していた。
だがその時はドレスを引っ張り出した後、自分の為だけに作られた豪勢な衣装部屋にもいかないでクローゼットの目の前で着替え始めた記憶がある。
着替えが済み、ドレスを身にまとった姿を確認しようと大きな鏡へ向かおうとした時だった、ノックもなしにあなたの大切な妹の名前をいれてくださいが部屋に入ってきたのだ。
大きく目を開いて立ち止まったあなたの大切な妹の名前をいれてくださいがとても印象に残っている。
いつもと違う自分であることを自覚していた私は恥ずかしくてとっさに隠そうとしたんだったか…
けど次の瞬間、あなたの大切な妹の名前をいれてくださいが元々キラキラした瞳を更に輝かせて
「おねーちゃんどうしたのそれ?! すっっっごっく素敵ね!!なんだかとても…大人の女性って感じ…本当に…きれい…かっこいいわ」ととても褒めてくれたのだった。
「この色って実は一番おねーちゃんに似合う色なのかも…このドレスもおねーちゃんのために作られたのかなって思っちゃうくらい素敵!」
あまりにもあなたの大切な妹の名前をいれてくださいが褒めるものだから逆に恥ずかしくなってこの時以来このドレスは一度も着なかった。それに蜘蛛に入団するまでこの色も着なかった。
そう、これは今夜の仕事着にどうかと今手にしている黒色のドレスとの甘い思い出。
今、Aはドレスを持ったまま悩んでいた。
このドレスの思い出に乗っかって甘くて厳しくない自分に乗っかろうとしている気がしたからだ。
甘い自分は嫌いだ。
甘い奴は自分も他人も過信しすぎる。
何もできない。
何も達成できない。
何も守れない。
けど、今回だけなら
今夜だけなら。
108人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ダイヤ - 喘ぎ声 (2022年8月5日 22時) (レス) @page41 id: 27e98af43e (このIDを非表示/違反報告)
ミカヅチ イヴ(プロフ) - ピポ助さん» コメントありがとうございます!旅団のみんなと夢主さんの理解が繋がる日が書けるといいなと思っているので、また更新したら覗きにきてくれると嬉しいです^^ (2019年10月29日 8時) (レス) id: e1903f9ba5 (このIDを非表示/違反報告)
ピポ助(プロフ) - コメ失礼します!この作品すっごく好きです、、夢主健気、、、旅団のみんなもわかってあげて欲しい!!続きが楽しみです!更新待ってます、頑張って下さい! (2019年10月29日 1時) (レス) id: 4111e46406 (このIDを非表示/違反報告)
ミカヅチ イヴ(プロフ) - なにもしたくない系女子さん» そうなんですか!ありがとうございます^^引き続き楽しんでいただけると嬉しいです^^ (2019年10月27日 22時) (レス) id: e1903f9ba5 (このIDを非表示/違反報告)
なにもしたくない系女子(プロフ) - 更新待ってました!お疲れ様です! (2019年10月27日 18時) (レス) id: 0b49310475 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ミカヅチイヴ x他1人 | 作者ホームページ:
作成日時:2019年10月26日 22時