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そんなことがあったのはもう数週間も前の話でまた会えるんじゃないかと思ってあの道を通っても彼の姿を見ることはなかった。会いたくないと言いつつも彼の姿を探してしまっている自分がいるのも確かだ。
いつものようにコンビニに寄ってから家に帰る。あぁ、夏は嫌にジメジメするなぁなんて思いながら朝から今この夕方の時間帯まで降り続く雨を鬱陶しく思った。雨は、あの日を思い出す。
少し俯きながら傘をさして歩けば視界は狭まり周りもろくに見えない。なのに私は気づいてしまった。丁度あの日と同じ交差点で私の目の前を男性が走り抜ける。傘もささずに、ミルクティーとお弁当が入ったコンビニの袋を持って。
「絹張君……？」
今度は私が彼の腕を掴み引き留める番だった。彼はあの日の私と同じように目を見開いて困惑の表情を浮かべる。カツーン、と傘の落下音が雨の中で響いた。咄嗟のことに傘なんて持ったままでいられなかったんだ。
やっと会えた喜びとまた迷惑をかけてしまった罪の意識で何故か涙が溢れてくる。自分で引き留めてしまったのにどうすれば良いか分からずにただ“絹張君……”と泣きながら名前を呼び続けた。
雨の中で朽ちられたら、幸せなのに。
「なに、そんな好きだったの？」
彼が少しからかうようななんとも言えない笑みをこぼしながらそう言った。想定外の言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするしかなくなんとも情けない顔になってしまう。
「好きだよ、バカ。あの夜からずっと」
目と鼻を真っ赤にしてひたすらにこぼれる涙を拭い彼の言葉に答えた。のらりくらりと私をかわし続けてきた彼をようやく私の言葉で掴むことが出来たように感じる。後悔なんかしてない。だってこんなにも素敵な人を愛してしまったんだ。
「俺も好きだよ」
ふわりと抱き上げられその場でくるりと一回転し地面に降ろされる。雨に濡れ前髪がぺったりと張りついた額をコツンと私の額につけ、彼は“好きだ”と囁いた。あぁ、こんな幸せなことがあって良いのかな。
ざんざんと泣くように雨が降り続けば良い。鈍色に染まった心に咲いた傘を投げ出し、互いに深い愛を伝え幸福に踊ろう。絹のように滑らかでインクのように流れるような
そして潭々と溜まった水溜まりに流してしまえば良い。
正しさも
優しさも、全部。
rain＿＿＿＿＿＿END
続く
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