・ ページ23
変人と呼ばれるのにはなんだか納得いかないらしい影山くんは、その後も色々バレーの話をしてくれたけど、やっぱり聞けば聞くほど変わってるなあ、と思うことばかりだった。
あと、説明の時の擬音語が多い。ギュンの速攻、とか、ピョピョーン、とか。
こんなに話すの、久しぶりだなあ。
話すうちに、ふと気づいたように影山くんが隣に座る。
おかげで、目はボールを追っているのに、私の全神経は始終隣に集中したままだった。
眼前で白鳥沢の試合が始まった途端、影山くんは持っていたエナメルバッグから何やらノートを取り出した。
「なに書いてるの?」
「今日の反省とか気づいたこととか」
どうやら毎日書いているようだ。
『6/2
伊達工
センターせんつかいにくい
サーブとブロック
・・・・・・・・・
月島 ブロックつよいあいて、ボール半分ネットからはなす→うまくいった
日向 そっこうの合図 こい と くれ 』
どこにでも売ってるようなそのノートは相当使い込まれていて、ボロボロだ。中身は体調チェックから相手のフォームなど様々。後から追加したような書き込みも満載で、平仮名が多かった。
影山くんはこんな風にバレーに向き合ってるのか、と思った。
「影山くんってなんでバレー始めたの?」
「なんで…ナンデ?」
影山くんはしばらく何も言わなかった。ちらっと横を見ると、何やら難しそうな顔をしてコートを見ている。
「バレーが、あったから?」
「…うん?」
聞き返してみるけれど、返事はそれだけのようだった。
「唐木は」
ぽつん、と呟くような声だった。
「え?」
「もうバレーはできないのか?」
思わず顔を上げると、影山くんもこっちを見ている。
視線が絡んで目を逸らしたくなったけど、彼の目はまっすぐで、逸らしたら負けだと思った。
影山くんが何を考えているのかはいつもわからない。わからないから、逸らしちゃいけない。
「手術をすればできるようになるんだけど、…でも、できるようになっても、やらないかもしれない」
怖くて。
するっと本音が出た。言ってから、私は怖かったのか、と思った。
「影山くんは怖いとかなさそう」
「いや…トスを上げた先に誰もいないのは、怖い」
そう言う影山くんの横顔は微かに悩ましげだ。
そっか、と応えたきり会話は途切れたけれど、不思議と気まずくはない。
ちょっとだけ、影山くんの世界が見えた気がした。
*
6人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:たぬき | 作成日時:2019年8月23日 17時