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影山くんが、ボールを持って日向くんと出てくるところだった。
何やら言い争っていてこちらには気づかない。
なんとなく、ついさっきまでコートにいた影山くんがそこにいることに気後れして、声をかけるのは躊躇われた。
脳裏に焼き付いた、試合中の底光りするような眼差し。
そのまま行ってしまうだろうと思っていたのに、ふと影山くんがこちらを向く。
わ、
「唐木？」
「あ、影山くん…と、日向くん」
唐木サンちわーっす、と日向くんも元気に挨拶してくれる。
切れ長の綺麗な目がついと視線を降ろす。
たったそれだけで、私は緊張してしまう。
「何してんだ？食いもんか」
「そう。お昼ごはん買いに言ってたの」
「メシは大事だもんな！でも俺これっぽっちじゃ全然足んねえけど！」
気づいたら、日向くんは私の持ってるビニール袋を覗き込んでいた。
お前の胃袋と一緒にすんなボケ、と影山くんがツッコミを入れる。
日向くん的にはそんなに少ないのかなあ。
「あの、二人とも、一回戦、おめでとう」
「おう」「あざーす！」
「みんな上手でびっくりした！烏野がこんなに強いなら、教えてくれればよかったのに」
「いや、こいつはヘタクソだ」
「ねえいる？！その補足いる？！」
「ああ？ヘタクソはヘタクソだろ」
「そんなことないよ！日向くんもスパイク凄かった。打点、すっごい高いんだね」
俺は跳べる、と言った日向くんの声を思い出した。
「サーブもレシーブもブロックも駄目だけどな」
「はいまた余計な一言ォ！」
二人の掛け合いが面白くて、失礼だとわかっているのに笑いが堪えきれない。
「あと、名前わかんないけど、リベロの人！反応速くてAパスもブレなくてびっくりした！」
「ああ、ニシノヤさんか。あの人の実力はあんなもんじゃないぞ」
「そうなの！？楽しみ！」
今度、コツを聞いてみようか。
そう考えてから気づいた。
私はもうリベロじゃない。
ううん。リベロじゃなくてもレシーブスキルは重要だ。でも、私にはもう意味がない。
「…引き止めちゃってごめんね。次の試合も頑張って」
「おう」
あざーっす、と日向くんの元気なお礼が、さっきよりも大きく響いた気がした。
踵を返してドアノブに手をかけようとした時、ドアガラスに映り込んだ二人のパス練姿に目が止まる。
あるいは、パス練程度なら私でもできるだろう。
そういう冷静な考えは、いつも額の辺りに浮かんでいる。
それでも、振り向けなかった。
＊
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作者名：たぬき | 作成日時：2019年8月23日 17時
