lose ページ43
ドアの向こうは体育館だった。またか、と及川はひとりごちた。ただしさっきとは随分状況が違う。
さっきの俺はセッターとしての力を遺憾なく発揮して影相手に勝利を納めた。
今の俺は……どうなってるんだろうか。
「!! 及川さん、ボールありました!」
「飛雄ちゃん……まあいいや、変な機会だけど一緒に練習でもする?」
「マジっすか!! サーブ教えてくだ……あ」
「うん。……レシーブ練から始めてみる?」
思い出したように口をつぐむ影山に及川は苦笑した。
ネットの張られた広い体育館には、“バレー初心者”が四人居た。
孤爪はボールを持ってみた。初めて触れたものの様な気分がした。
赤葦はオーバーでボールを上げてみた。三回ほど繰り返したところでボールはあらぬ方へ跳んでいった。
影山と及川はひたすら対人レシーブをしていた。ボールが手に当たる。おかしな方向へ弾かれる。転がっていくボールを追うことはせず、かごから新しいボールを取り出す。そしてまたレシーブ練を始めた。
及川がボールを出す。影山の腕に当たる。斜めに弾かれる。孤爪の足元まで転がったボールは拾われて、そこから不器用なトスが上がる。ネットを伝って落ちたボールを赤葦が受け取った。
ボールを打つ。あらぬ方へ跳んでいく。
ボールを打つ。あらぬ方へ跳んでいく。
ボールを打つ。あらぬ方へ跳んでいく。
何度繰り返していただろうか。
いつしか体育館の床はボールだらけになっていた。あのかご、無限にボール出るんだなと赤葦は呑気なことを思った。孤爪は座り込んで二人の練習を眺めていた。
そして。
「あっ」
「……真っ直ぐ、跳んだね」
及川の放ったボールは、影山によって真っ直ぐレシーブで返された。
周りを何の気なしに見渡した及川は目を剥いた。
「うっわ、何これボールだらけになってる?!」
「こんなにやってたんすね……」
練習すればいい。
ゼロから、今までの技術を取り戻すために。そのためにはどれほどの時間が掛かるのだろうか。
何年もの積み重ねを取り戻すために、これからどれほどの練習が必要なのか。
「……もう一本お願いします!」
「まだやんの?!」
「まだ一本しかちゃんと返せてないじゃないすか!!」
「まだやるんだ……見てるだけで疲れる」
「孤爪も俺とやらない?」
「……まあレベル上げだと思えばいいか」
どれほどの時間が必要なのか、そんなことはわからない。
でもそれは、やらない理由にはならない。
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わか - 神作品だとおもいます! (2月6日 20時) (レス) @page50 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - ぽすとがかりさん» 2年ぶりにこの作品をまた思い出してくださって大感謝です、ありがとうございます!! 長く覚えて頂けているというのがとても嬉しいです。 (2022年1月17日 19時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
ぽすとがかり - 2年くらい前に出会ったこの作品をもう一度見たくてめっっちゃ探しました!やっぱり何度見てもホントに感動します!作ってくださりありがとうございます!!もう神様 (2022年1月17日 15時) (レス) id: f31b841de2 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - zeroさん» 大分昔の作品なのに読んで頂けて嬉しいです。ありがとうございます! (2021年9月5日 3時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
zero(プロフ) - もうこれ神作品以上 (2021年9月3日 15時) (レス) id: 0d7a47aa6b (このIDを非表示/違反報告)
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