27 ページ27
速く。できるだけ速く。教室から離れなきゃ。それだけを考えて、階段を駆け下りた。途中誰かに呼び止められたような気がして方向を変える。そんなことをしてるうちに昇降口から遠ざかってしまった。
あがった息を整えるために立ち止まり、ふらふらとそのまま近くの空き部屋に転がり込んで。
眩しく西日が射すその部屋にぽつんと立ちながら、何だか無性に泣きたくて仕方がなくなった。
背負っていたリュックを床に投げ出してベランダの方へ進む。泣きたくてたまらない。泣いてたまるかとも思う。でももし泣いてしまったとしたら、それを誰にも見られたくない。
ベランダと教室とを遮る扉を開くと、ぶわりと強い風が舞い込んだ。乾いた空気が瞳を撫でて、私の目からはとうとう雫がこぼれ落ちる。
「……から、だから、期待するなって、言ったのに、ね……」
期待も信用も、しない方がいいってわかってた。いや、わかったつもりでいた。つもりだったから、今こんな目に合っている。
北くんは優しいから。北くんは噂を知らなさそうだから。
それがどうした。知ったら、みんなと同じ風に思うだろうって、自分で予測してたくせに。それとも、心の中で信じてたのか。信じてたのに裏切られたから、こんなに胸が痛むのだろうか。
……いや違う。認めたくないけれど、違う。
裏切られたから苦しいんじゃない。信用を撥ね付けられたから悲しいんじゃない。
私は単純に、北くんに、軽い女だと思われたくなかったのだ。ただ、それだけだった。
それだけのことを、認めたくなかった。
どうして軽い女だと思われたくなかったのか、考えたくなかった。
認めたくない。認めてたまるか。今以上に惨めな気分になるのに。認めたくない。知らない振りを、していたい。
でももう、どうしようもなく誤魔化しが効かないってことをわかってしまったから。
惨めだ。カッコ悪くて、バカみたいで。
それでも認めるしかなかった。
北くんを好きだったと、今でも好きなのだと、認めるしかなかった。
「カッコ、わる……」
廊下を駆けるような音が聞こえたのはその時だった。
頭がそれが何を意味するのか考えるよりも先に、さっき閉めたはずのドアが勢いよく開かれる音が後ろから聞こえた。
誰が来たのか何となくわかった気がした。
いやこれは、そうであって欲しいという私の願望だろうか？
「神崎さん！」
でも聞こえてきた声は、確かに北くんのものだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 595人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えま(プロフ) - Roaさん» コメントありがとうございます！！ 北さんの魅力を表現出来ていたなら何よりです！！ 宮兄弟も書いていて楽しかったので、そう言って頂けるとありがたい限りです！！ (2020年6月19日 8時) (
レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
Roa(プロフ) - 読んでる途中心臓が痛かった…っ、でも北さんの真っ直ぐなところがもう心にぐっときていつも間にか目の前歪んで（；＿；）宮兄弟の「やぁぁっとくっついたん！？！？」が個人的にめちゃくちゃ好きでした笑北さんの勘違いしていた触れなば落ちんの意味も素敵で感動 (2020年6月19日 5時) (レス) id: edef434db0 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - 宙さん» こちらこそ読んでいただきありがとうございます！！ 切なさ甘酸っぱさを味わって頂けたなら嬉しいです！！ (2020年5月31日 16時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 胸がギュッてなった！なんて素敵な終わり方！！！こんな作品を作っくれてありがとうございます！ (2020年5月31日 14時) (レス) id: a1083db659 (このIDを非表示/違反報告)
菜乃花 - いやいや！！お気になさらず(^^)中学のときは皆まだ幼いので仕方ないと思ってます笑その分も今全力で楽しめてます！これからも頑張ってください！一緒にハイキュー！！も応援し続けましょう〜！ (2018年12月1日 10時) (レス) id: 77a025593a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
