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「やってせっかく坂城さんと付き合えたのにしないの勿体ないやん？」
唇を尖らせるようにして彼はそんなことを嘯いた。この会話の流れからすると至って自然な、でも全て分かっている私からすれば奇妙なその台詞。それのお陰でようやくわかった。彼が私に真実を切り出さない理由。
よく分かった。彼は私を騙し切るつもりなのだろう。短い夢でも見せてくれるつもりなんだろう。それで良い、ずっと騙された振りをしてあげる。本当に騙されないように気を付けながら。
「……そんな風に言って貰えると嬉しいな。でも無理しないでね！私、好きな人には好きなことしていて欲しいから」
すらすらと言葉が出てくる。でもこれは嘘じゃない。負担になってまで二人の時間を作って欲しいとは思わないのだ。だからこの台詞を言うのはたやすかった。
「いや、でも時間作ってしようや」
「負担にならないなら。無理はしないで？」
そっちが騙してくれるなら、私も騙されてあげる。きっと厚意からの事だろうから。……いや、後ろめたさだろうか。まあいい。
「ね、言わなかったっけ？私、付き合えただけで嬉しいの。だからデートは本当に無理しなくていいからね！」
宮くんの顔が一瞬歪んだ。分かる。これは後ろめたさの現れ。何も知らずに無邪気に喜ぶ私への罪悪感。さらりといつもの笑顔に戻すけど、もう全部わかってる私からすれば気付いてしまうのだ。彼は少しずつ私への罪悪感を積み重ねていく。
それは私の願っていたことで、私がこんなことをしている目的そのもので。それなのにざまあみろと思わないのはどうしてなんだろう。嘘つきの私の所為で、宮くんも嘘を重ねていく。その行程が悲しいけれど、でも私の所為じゃない。向こうが先に嘘をついたのだ。そして彼は“騙し続ける”という選択肢を取ったのだ。
私の言葉に、それでも一回くらいはデートしようと提案してくる彼の顔が、本当に付き合いたての彼氏のように見えるのが寂しい。全部嘘と分かっているから。彼なりの優しさだということも。
「……宮くん、優しいんだね」
それはきっと、私への罪悪感から来るものだろうと想像は付くけれど。本当の恋人同士みたいなのに、そうじゃないのが悲しいな。他人事みたいにそんなことを考えた時、私は確かにこれが全て嘘だと心の底から納得した。宮くんの上手な嘘だと。
「でも私、付き合えただけで嬉しいの」
これは嘘じゃない。
本当に付き合っていたのなら、ね。
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えま(プロフ) - せなけいこさん» そこまで言っていただけてただただ感謝です！！ ありがとうございます！！ (2020年10月3日 15時) (
レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
せなけいこ - 星の数が足りません！めっちゃ好きです！！ (2020年10月3日 14時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - おかか。ですか？さん» ありがとうございます！！ 作品を楽しんで頂けたようで幸いです！！ (2020年9月7日 18時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
おかか。ですか？ - 私の語彙力がないせいで言い表せないんですけど、めっちゃ面白かったです！最高でした!! (2020年9月7日 17時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - せりなさん» 天才だなんて！！ 身に余る言葉です、ありがとうございます！！ (2020年5月13日 5時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
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